はじめに
前回の記事では、ダイエットが停滞期に陥る原因を説明しました。そこで、今回はダイエット停滞期から脱出する方法を説明します。
前回説明したように、いろいろな経緯があるにせよ、結論としてダイエット停滞期においては消費カロリー=摂取カロリーになっているから体重が減らないわけです。
したがって、ダイエット停滞期から脱出するためには、もう一度消費カロリー>摂取カロリーにもっていくしかありません。当然、そうするためには、消費カロリーを増やす、摂取カロリーを減らす、の2つの方法があります。
順番に検討していきます。なお、水分量の影響については、別の記事でまとめていますのでそちらを参考にしてください。
消費カロリーを増やす
1.有酸素運動の時間を増やす
消費カロリーを増やすためには運動時間を増やすのが一番ストレートです。もっとも、これは工夫ゼロの方法です。
いずれまた停滞期は訪れますから、どこまでエクササイズ時間を増やせるのかという切実な問題があります。
もっとも、いくらやっても飽きない大好きな運動があれば、それをすることはとても良いことです。
2.有酸素運動の種類を変える
前回の記事の最後に触れましたが、有酸素運動を中心にしている人は、メインにしている有酸素運動に慣れてしまって、消費カロリーが自分の思っている量よりも低くなっている可能性があります。
その場合、有効なのは新しい運動を始めることです。トレッドミルからエプリティカルトレーナーやステッパーに変えるのも良い方法です。ちょっとした違いのようで、体の動かし方は大きく変わります。
慣れていない運動をすると疲れますが、それだけ消費カロリーを稼げることになりますから、消費カロリーを増やす上で有効です。
しかし、この方法もいずれ停滞する運命にあるという点で、有酸素運動特有の欠点から逃れられません。
3.有酸素運動の強度を上げる
有酸素運動の強度についてはよく誤解されていますから、もし誤解しているのであれば、強度上げることで消費カロリーを増やす余地があるかもしれません。
よく目にする耳にする情報に、高負荷よりも低負荷の有酸素運動の方が脂肪燃焼効率が高いというものがあります(いわゆる「脂肪燃焼ゾーン」の考え方)。これは、その通りなのですが、“脂肪燃焼効率が高い”ということがどういうことなのか、今一つ理解されていないと感じます。
これは、すごく単純化すると、時速100kmで3時間走るのと、時速300kmで1時間走るのを比べた場合に、時速100kmで3時間の方が、同じエネルギー消費の中で脂肪燃焼割合が高いという比較のことです。
何が言いたいかというと、時速300kmで3時間走ったら、そちらの方が圧倒的に脂肪の燃焼量は多くなります。
散歩で100kcal消費するとそのうち85kcalは脂肪を燃やすことになり、脂肪燃焼効率は85%と非常に高いです。しかし、同じ時間ジョギングすれば500kcal消費でき、脂肪燃焼効率は50%とそれほど高くありませんが、250kcal燃やせます。(この散歩とジョギングの数字は末尾記載のハッチンソンの参考文献より引用しました。)
脂肪燃焼効率を上げることを意識して、ゆっくり運動している人がいますが、ダイエット的には非効率な運動をしていると言えます(時間当たりのカロリー消費量という意味で)。
また、負荷の軽い運動で脂肪を多く燃焼し、グリコーゲンを温存すればするほど、運動後の食事で摂取した炭水化物はグリコーゲンの補充に回らないため、脂肪になりやすいという忘れられがちな欠点があります。
そういう意味において、「座っているだけで脂肪が燃える」という一部の脂肪燃焼サプリは、コンセプト自体が破たんしています。日常生活における脂肪燃焼割合が高まるというのは、グリコーゲンの使用割合が低くなるということですから、食事によるグリコーゲンの補充率が下がり、体脂肪に回る率が高まるということです(プラマイゼロ)。
結局、有酸素運動をダイエットの手段に用いる人は、トータルの消費カロリーにこそ注目すべきなのです。有名な「脂肪燃焼ゾーン」の考え方は論理的にも生理学的にも無理があるとハッチソンは述べています。
したがって、週3回30分など時間を決めて運動している人で、体力に余裕があると思ったら強度を上げていくのが良い方法です。
4.筋トレを始める
筋トレをしていないのであれば、筋トレを始めるのが一番良い方法です。
筋トレは、有酸素運動とは全く種類の違う運動です。筋トレ中の消費カロリーはたいしたことはないですが、筋トレ後に体は、筋トレで受けたダメージから回復しようとして代謝を活性化させます。
したがって、前回説明した、ダイエットの進行に伴う消費カロリーの減少を最小限に抑えることができます。体は傷ついた筋肉を回復しようと必死なので、“カロリー不足に対応して低燃費運転で行こう”というような状況ではありません。カロリー不足による消費カロリーの減少と闘うには一番良い方法です。
ハッチソンの本によると、前回説明した筋肉効率の低下の実験をした研究者たちも、負荷の高い運動をすることで筋肉効率向上を回避することができるかもしれないと提案しているそうです。
さらに、ダイエットしながら筋トレをすれば、筋肉の減少を最小限に抑えることができるため(なお、勘違いしている方も多いですがダイエット中はいくら筋トレしても筋肉は増えません)、しない場合に比べてリバウンドしにくい体を作ることができます。
5.まとめ
結局のところ、運動に関しては、いろいろやるのが一番です。また、うまいやり方というのはないもので、脂肪が燃えれば燃えるほど、運動はきつくなると思って良いでしょう。
もちろん筋トレもするべきです。そして筋トレすると決めたのであればバーベルを持つべきです。重いもの持ってこその筋トレです(参照)。
摂取カロリーを下げる
1.摂取カロリーを安定させる
摂取カロリーを追加で下げる方法を取るのであれば、最初にしなくてはいけないことは食事習慣をもう一度見直して、摂取カロリーの安定化を図ることです。
今日は1000kcal、 昨日は500kcal、一昨日は1200kcalといった不規則なカロリー摂取をしていると、体は摂取カロリーの減少に反応しません。
したがって、追加で摂取カロリーを下げるのであれば、それに応じて体が反応するように、あらかじめ毎日の摂取カロリーを安定させる必要があります。
逆にいうと、摂取カロリーを安定させると体はわずかなカロリー減少にも反応します。
ダイエットはいずれ停滞する運命です。したがって、その時にまた下げられるように、少しのカロリー減少で体が反応するように、カロリー摂取の安定化を図るのはとても重要です。
2.食事回数を増やす
ダイエットを始めた時に、トータルの摂取カロリーを減らすのは当然ですが、それに伴って食事回数を減らしているのであればそれは逆効果です。むしろ1日5回とか6回に増やさなくてはいけません。
なぜ、食事回数を減らすのがいけないのでしょうか?
それは、空腹時間が長いとその分代謝が下がるからです。体はエネルギー不足に対して代謝を下げて適応しようとします。
そして、代謝が下がった体に対して、一日の摂取カロリーを1回とか2回とかで取ると、1回あたりのカロリーが取り過ぎになります。1回の食事で吸収できる量は決まっていますから、余った分は脂肪になります。
それでも、その後の長い空腹時間に燃えると思うかもしれません。確かに一部は燃えますが、体は空腹時には脂肪を燃やすだけでなく、代謝を減らすことで対応するわけです。
したがって、少ない食事回数というのは、1回あたりの食事で脂肪となる割合を増やすだけでなく、1日全体で見た時に燃える脂肪を減らすことにつながります。
ダイエット中はカロリー不足を実現しつつも、代謝はできる限り高く保つという矛盾した目標が狙いですから、少量の栄養をこまめに補給し続けて、できる限り代謝を高く保つ必要があります。
3.摂取カロリーを10%下げる
カロリー摂取を安定化させて、食事回数を増やすと、体は摂取カロリーの減少に非常に敏感な体になっているはずです。
そこから追加ですることは摂取カロリーを少し(最大でも10%)下げることです。
前回説明したようにカロリー不足というのはいずれ解消される運命にあります。ダイエット停滞期は必然です。乗り越えてもいずれまた来ます。
したがって、一番重要な対策は、追加で摂取カロリーを下げる伸びしろを用意しておくことと、安定的なカロリー摂取と少量多食(スモールミール)を実践し、わずかなカロリー減少でも反応する体にしておくことです。
停滞したら、少しカロリーを下げて、また停滞したらまた少し下げるというプランを最初から持っておくのが最善の策です。下げても10%位にとどめておきましょう。
また、一気に摂取カロリーを下げるサバイバルモード参照)に突入して、代謝が一気に落ち、筋肉の分解が加速するという最悪の状態になりますからこれを回避する上でも、少しだけ摂取カロリーを減らすのが重要です。
4.まとめ
摂取カロリーを下げる場合には、いろいろやるのが良い運動と違ってルールがあり、カロリーの安定化とスモールミールの実践でカロリー変動に反応しやすい体にしてから、カロリーを少しだけ下げるのが有効です。
停滞期対策でやってはいけないこと
停滞期を克服する方法として、消費カロリーを増やす方法と摂取カロリーを減らす方法を見てきましたが、逆にやってはいけないことは何でしょうか?
ダイエット停滞期に焦って、運動の強度を上げるのと同時に摂取カロリーを減らすのはダメです。カロリー不足を拡大しすぎて良いことなどありません。体がサバイバルモードに入るのだけは避けなくてはいけません。
特に、筋トレを始めると同時に摂取カロリーを減らすのはタブーの一つです。
筋トレで代謝が活性化するというのはその通りです。しかし、もし初心者が筋トレという未知の強烈な刺激を体に与え、それと同時に摂取カロリーを減らせば、体にとってそれはただの緊急事態でしかなく、代謝は活性化しません。
運動の強度を上げるか、摂取カロリーを減らすか、変化は少しにして体の反応を見るのが重要です。
結論
ダイエットが停滞したら、消費カロリーを増やすか摂取カロリーを減らすしかありません。
消費カロリーを増やすには様々な方法がありますが、いろいろな運動をするのが良く、特に筋トレをしていないのであれば始めた方がよいです。
摂取カロリーを減らす方法を取るには、まず、カロリー減少に反応しやすい体にしておくのが重要です。また、サバイバルモードにならないために少しだけ下げるのが重要です。
焦って、運動強度の増加と摂取カロリーの減少を同時にするのは良くありません。
参考
今回参考にしたのは下記の本です。
アレックス・ハッチンソン著 児島修訳 『良いトレーニング、無駄なトレーニング』草思社
クリス・アセート『ダイエットは科学だ』体育とスポーツ出版
Jim Stoppani Jim Stoppani’s Encyclopedia of Muscle & Strength