はじめに
今回は正しいフォームの重要性に関する話です。
下記関連記事において、初心者に週3全身トレを勧めている人達はフォームの重要性を強調しているからと説明しました。
そして、記事では引用しなかったのですが、やはり初心者に週3全身トレを勧めている本の中にHUGEという本があります。HUGEはFLEX magazineというMuscle and Fitnessの兄貴分に当たるバリバリのボディビル雑誌が編集した、筋トレを始める初心者向けの本です(雑誌ベースの割にはかなりオーソドックス)。
超初心者から始まって段階ごとにいくつかのメニューが紹介されていますが、最初の週3全身トレの4週間と、3分割移行後の最初の6週間は、絶対に限界まで挙上してはダメで、各種目12レップ5セット(脚は15レップ)きっちりこなせと強調しています。その後、かなり高強度の(半分くらい6RMか5RMで残りは8RM)メニューが始まる、かなりストロングスタイルのメニューが紹介されています。
この本では、3か月目からかなりの高強度のトレーニングに移行することから、その前提として、くどいくらい正しいフォームの重要性を述べていますから、これを参考に正しいフォームとは何かを説明したいと思います。
筋トレ初心者で、焦らず正しいフォームを身に着けることを意識している人が具体的に何に気を付けなくてはならないのかを解説したいと思います。
週3全身トレへの疑問
週3全身トレの記事で書きましたが、初心者に週3全身トレを勧めている人達はフォームの重要性を強調しています。そして、そのためには回数多くやることが重要だから週3全身トレが最適であると説明しています。
しかし、週3トレだとできる種目数は少ないです。どんなに回数を繰り返したところで身に付くのはせいぜい8種目程度です。その後に分割法を採用したときに、新しいエクササイズが倍以上出てきて、それについては新しく学ばなければならないわけですから、正しいフォームを身に着けるためには週3全身トレが良いといったロジック自体がしっくりこないと思った人もいるかもしれません。
いずれ分割してたくさんの種目をやることになるのであれば、最初からそれらをやって回数こなしたほうが良いのではないかという疑問です。
例えば、胸のトレーニングではインクラインプレスやフライは長い付き合いになるのだから、なるべく早めに始めたほうが良いとも思えます。ベンチプレスがいくらできても、フライはフライでフォームの習得が必要なはずです。
正しいフォームが重要といって、ベンチプレスだけたくさんこなして長期的に何の意味があるのかという疑問です。
この疑問に対する答えのポイントは、正しいフォームの重要性を強調する人たちが身につけろと言っているものが、実は正しい動作だけではない点にあります。
正しいフォームとは何か
筋肉を成長させるのはトレーニングですが、そのトレーニングを構成する最小単位は種目でも1セットでもなく、1レップです。トレーニングとは1レップの積み重ねであり、究極のトレーニングというのは、それを構成する全てのレップが完璧なトレーニングを意味します。
そして、完璧な1レップに必要不可欠な要素が正しいフォームです。正しいフォームを強調する人たちの最終目的は完璧なレップです。
しかし、初心者に向かってパーフェクトレップを実現しようと言っても意味が良く分かりませんから、正しいフォームを身に着けようと言っているのだと思います(たぶん)。
結論から言うと、正しいフォームの重要性を強調する人たちの言う正しいフォームというのは“外面的”なものではありません。横からトレーナーに見てもらって、「正しいフォームでできています」と確認してもらって終わるようなものではありません。
これについて、上記のHUGEが面白いことを言っています。
Perfection, as it applies to reps, calls for a fusion of the physical and mental efforts taking place during your training.
(個人的訳)
完璧なレップにおいては、心と体のフュージョンが要求される。
つまり、何もベンチプレスをたくさんやって、はたから見て正しい動きですと言われるような、外面的な正しいフォームを覚えろと言っているわけではありません。もちろんそれも重要ですが、それだけでは終わらず、究極の正しいフォームとは、動作が生物力学的に正しいだけでなく、その動作が心と連動していることを意味します。
基本の数種目を徹底的に繰り返して、心と体の連動といった内面的な部分も含めた完璧なレップを実現できるようになることを求めているのです。
では具体的に正しいフォーム(完璧なレップ)を身に着ける上で意識することは何でしょうか。
パーフェクトレップを達成するために
最初から最後まで正しい動きをしているか
これは外面的なものです。
HUGEでは、最初の1レップを始める前から間違っている初心者が多いことを警告しています。
全てのエクササイズで、スタートポジションで体はどういう姿勢なのか、腕はどこあるべきか、背中やお腹はどうするべきか、ちゃんと言えるでしょうか。
また、動作においても、どの筋肉を収縮させるのか、そして、周辺にあるどの筋肉が動いてしまうと狙った筋肉への負荷が逃げてしまい、間違ったフォームになるのか。大まかでもよいので体の構造を理解した上で動作を理解しているかチェックしてみましょう。
初心者で、ベンチプレスで三角筋全部に効いてしまう人は多いと思いますが、三角筋前部がどことどこを結ぶ筋肉で、どういう形でベンチプレスに参加しているかちゃんと説明できるでしょうか。もちろん解剖学といった領域に踏み込む必要はありませんが、これが分からないと、“大胸筋で挙げるんだ”と念じているだけになってしまいます。
狙った筋肉を意識すると言っても、筋肉の構造を理解しなくてはどうしようもありません。そういう意味では、フレデリック・ドラヴィエの本は絶対に持っていた方が良いと思います。
心と体の連動といっても、筋肉の構造を理解した上で正しい動きを繰り返してそれが無意識にできるようになるのが第一歩です。
狙った筋肉を動かす感覚
外面的に正しい動きができるようになったのであれば、次は狙った筋肉を収縮し、また、伸長させていく感覚を身に着けることが大事です。
正しい動作を身に着けても、それはスタートでしかありません。すべての動作はウェイトを持ち上げる動作ですが、もし、ウェイトを持ち上げることに心が集中しているのであれば、セットの後半でフォームは崩れる運命にあると言っても過言ではありません。
メインの筋肉が疲れてきたら、別の筋肉を使ってウェイトを持ち上げようとしてしまうからです。
ウェイトに集中するのではなく、狙った筋肉を動かすことに終始集中し、動作中狙った筋肉が収縮し、そして、降ろす時には伸びていく感覚を意識していくことが重要です。
そして狙った筋肉がもう収縮できないところまで行ったら1セット終わりです。
1レップ入魂
ここから先はハードルが高いです。
前回より重い重量を扱うことや前回よりレップ数を増やすことはトレ―ニングの目的ではありません。トレーニングにおける本当の目的は、実施するすべてのレップにおいて最大限の効果を得ることです。
選んだ重量を使って、どれだけ筋肉成長を刺激するのかこそが本当のゴールであり、前回の重量やレップ数を上回ることではありません。
そのためにはウォームアップセットの1レップ目から、MAXに挑戦する1レップと同じだけの集中力で臨まなくてはいけません。
メインセットにおいても最初の1レップ目をこなすのは簡単です。しかし、そうではなくて、レップをこなす以上の集中をして、最後の1レップと同じだけの集中力を向けて、狙った筋肉を全力で動かす必要があります。
きつくなってきてからスイッチをオンにして、姿勢を正して本気出したりしていませんか。
レップ途中で休まない
これは爆発的挙上と同じですが、全レップに全力で挑まなくては行けず、全力で持ち上げなくてはいけません。
時々、フォームが大事とスローモーションのような動きでエクササイズをしている人がいますが、それは単にレップ中に力をセーブして休んでいるだけです。パーフェクトレップのためには、常に全力を出す必要があります。
降ろす時もしっかりコントロールした動きで降ろさなくてはいけません。トップポジションでも狙った筋肉を最大限収縮させる必要があり、まちがっても関節をロックして狙った筋肉を休ませてはいけません。
今日こそ10レップ挙げて、次回は重量を上げようなどと考え、それを実現することが目的になっていませんか。回数を忘れるくらい1レップに全力投球しましょう。
正しいフォームが維持出来なくなればやめる
これも重要です。
限界に達するというのは、どうやってもウェイトが持ち上がらなくなった点ではなくて、正しいフォームが維持できなくなった点です。正しいフォームで意識している筋肉を収縮できなくなった時点でセットを終える必要があります。
多くの人がきつくなってきた時に、体をずらしたり振ったりしはじめて、何とかしてもう数レップこなそうとします。そして、この習慣こそが筋肉成長のためのトレーニングを見栄のためのトレーニングに変え、最終的に怪我や長期的なプラトーに導きます。
小括
以上を学ぶためにも、最初の2か月以上、限界までやらずに既定のレップ数をこなせる重量で、しっかりと12レップ5セットを完遂して、正しいフォームを身につけろと強調しているのだと思います。
確かに、見栄のトレーニングに陥るのを防止して、最初から最後まで心と体の連動した正しいフォームのトレーニングを習慣づけるためには、限界まで持ち上げるのではなく、それなりの期間自分の限界に挑戦するのを忘れて、既定のレップをしっかりこなすことを目的にしたほうがよいかもしれません。
まとめ
正しいフォームというのは、生物力学的に正しい動きをするだけでなく、心と体を連動させること。
また、重量やレップ数を増やすことに集中せずに、意識を狙った筋肉に集中させて、全ての1レップから最大限の効果を得ることが重要である。
重いものを持ち上げるという気持ちこそが間違ったトレーニングに導く元凶だから、最初はきっちりと既定のレップ数をこなすことを意識して、最初から最後まで完璧なフォームでトレーニングを終える習慣をつける必要がある。
初心者にとって重要な、正しいフォームの習得というのは、各エクササイズの外面的な正確な動きの習得だけではなく、このような完璧な1レップを目指す姿勢を身に着けることを意味する。
終わりに
今まで話したことを無に帰すようですが、ロニー・コールマンは重量にこだわれと言っています。
ロニーは、多くの人はヴィジュアライゼーションを強調しているが、自分は完璧な体でステージに立つ自分を想像したことなど一度もなくそんなゴールを描いたことはない、毎回のトレーニングにおいて、前回よりも少しでも重いウェイトを、1レップでもいいから多いレップ数を実現することをゴールに設定し、それに自分は人生を捧げてきた、とカッコいいことを言っています。
重量追求と正しいフォームは、食事とトレーニングの議論に似ています。食事が重要というのは、トレーニングに手を抜く人なんてほとんどいない反面、食事に対しては気が回らない人が多いから強調されることであり、実際のところ両方とも重要で、どっちが重要か、食事が何割でトレーニング何割なんて言う議論ほどナンセンスなものはありません。
重量追求と正しいフォームも議論としてはそれに似ており、両方とも重要であり、どっちが重要かではありません。
ジムに行くと、めちゃくちゃなフォームで雄叫びを上げながらスーパーパーシャルで高重量のベンチプレスをやっている人もいれば、いかにもそういう人にはなりたくないといった顔で何度もトレーナーを呼んでフォーム見てもらい、動作中きょろきょろ何度も細部を確認しながらスローモーションのようにゆっくり挙上して、いつまでたっても重量を上げない人もいます。
丁度良い人にならなくてはいけません。
参考
HUGE-A Complete Workout Regimen from Bodybuilding’s Superstars