はじめに
今回のテーマは、ムキムキにならずに締まったスリムな体になるためのエクササイズです。
結論から言うと、「締まったスリムな体が欲しいだけで筋肉を付けたいわけではない。女性用の筋トレを教えてほしい。」という質問は生理学的には無理がある主張なので、そのようなエクササイズはないというのが回答です。
しかしながら、「女性はムキムキになりたくないですよね。ムキムキにならずに締まったスリムな体になるための特別のエクササイズを教えます。」と笑顔で答える人たちがたくさんいて、平然とよくわからないエクササイズを勧めている状況がフィットネス業界にはあふれています。
これらを支えているのは、バーベルなどを用いる“いわゆる筋トレ“に対する嫌悪感であり、ただの食わず嫌いかもしれません。嫌いな運動をやる必要など一切なく、好きなことをするのが一番ですから、理論的な説明をする必要もないのかもしれませんが、興味がある人もいるかもしれませんので解説してみます。
生理学と締まった体
生理学の観点からすると、体脂肪や筋肉といった言葉ありますが、締まった(tone:トーン)という単語はありません。体のどこかを触って、力を入れてもそこが柔らかいのであれば、それは脂肪を触っているからであり、筋肉がたるんでいるからではありません。したがって、“筋肉を引き締めるエクササイズ”というのはすべて嘘であり、そのようなものは存在しません。
結局のところ体組成がすべてであり、締まった体というのは体脂肪率の低い体でしかありません。
締まった体とボディシェイプ
筋肉の形というのは遺伝的に決まっていて、これを変えることはできません。つまり、筋トレで筋肉をシェイプすることはできません。しかも、体全体の筋肉量を減らしたり増やしたりすることはできますが、特定部位の筋肉を減らしたり、増やしたりすることは至難の業です(女性は特に)。
個人の遺伝的素質を乗り越えるのは想像を絶する努力が必要であり、腕を太くしたいのならスクワットをしろというのは正しいアドバイスです。体全体を大きくするのに伴って腕を太くすることはできますが、腕の細い人がいくら腕の筋トレを頑張っても、”腕の太い人”になるのは相当困難です。特に特徴的なのが、前腕(肘から手首までの部分)とふくらはぎで、女性でそこが太い人は体全体の体脂肪率を下げる以外に細くする方法はありません。
また、関連記事に書いたように特定部位の脂肪を燃やすのは筋トレではできません。つまり、特定部位の筋肉を増やすことが困難であることとあわせて考えると、筋トレで特定部位を引き締めることはできません。
結局のところ、ボディビルダーほどのすさまじい努力をするつもりのない人が筋トレでできることは、体全体の筋肉量を変えることにつきます。それと共に食事制限を合わせて体全体の脂肪を減らし、理想の筋肉量は人によって違うにせよ、全体的に締まった体を目指すことしかできません。筋トレで特定部位のシェイプを変えることはできないのです。
ダイエット中の筋トレ
ダイエットにおける筋トレの目的は、ダイエットというカロリー不足の状況で、体脂肪と共に減っていくのが避けられない筋肉をできる限り維持することです。増やすのではなく減少を食い止めることです。
したがって、筋トレでしなくてはいけないことは、体に筋肉が必要であるとの信号を与えることであり、そのために必要なのが、重い重量を使った“筋肉をつけるためのトレーニング”です。
前提としてカロリー不足がありますから、どんなハードなトレーニングをしても、筋肉が増えることはありません(男性ホルモン云々以前の問題)。カロリー不足で、体を分解して消費エネルギーを補っている状況で、筋肉が増えるなんてことは絶対に起こりません。減少をできる限り抑えることができるだけです。
脂肪も筋肉も分解していく中、筋肉が必要だという信号を体に与えて、摂取カロリーがなるべく筋肉に向かう状況を作り出し、脂肪を優先的に減らして、体脂肪率を下げて締まった体を目指すのです。
したがって、締まったスリムな体を作るエクササイズとは、ムキムキになるためのエクササイズと全く同じです。
筋トレダイエットに多い誤解
一番多い誤解は、筋トレで消費カロリーを増やすとか、筋トレで脂肪を燃やすといった考えです。もちろん運動する以上、消費カロリーは増えますが、それなら有酸素運動の方が圧倒的に効率的です。
そうではなくて、食事制限で体重減少を実現するのが最初にあって、それだと、筋肉も分解されてしまうから、同じ体重が減るにしても、できる限り筋肉を維持しつつ脂肪を燃やして体脂肪率の低い締まった体にするために筋トレをするのです。
筋トレは痩せるためのツールではなくて、体脂肪率を下げるためのツールなのです。
低負荷高回数トレーニング
多くの女性が筋トレをするとムキムキになってしまうと誤解して、低負荷高回数のトレーニングをやっています。ダンベルを手に取るときに、ムキムキにやったりするのが嫌だと考えて、軽いダンベルを持って脂肪を燃やそうと高回数でやる人がたくさんいます。
しかし、20回以上持ち上がるような低負荷であれば、筋肉は使いますが、体に対して“筋肉が必要だ”という信号を与えるほどの刺激にはなりませんから、エクササイズとしては何の意味もありません。さらに、特定部位の筋肉だけ動かしても消費カロリーはわずかですから、脂肪燃焼という観点からも同じ時間散歩している方がよほど効率的です。
また、すでに説明したように、”締まった筋肉”なるものは存在しませんから、たるんだ体を引き締めるエクササイズといったものは存在せず、軽いダンベルを高回数持ち上げるのが体を引き締めるというのは都市伝説でしかありません。
この点、速筋を鍛えるとムキムキになるから遅筋を鍛えるといった説明がされる場合もありますが、これも破綻した説明です。カロリー不足の状況では、遅筋であれ速筋であれ、筋肉が増えるということは起こりません。筋肉を最大限維持するという目的のためには成長しやすい遅筋を刺激するのが一番効率的です。
まとめ
ダイエットにおける筋トレのポイントは体重減少と共に減る筋肉をどう最小限に抑えるかにある。そのために必要なのは体に“筋肉が必要だ”という信号を与えることであり、それはムキムキになるためのトレーニングと同じ。
また、たるんだ筋肉や締まった筋肉というものは存在しない以上、筋肉を引き締めるエクササイズというものは存在しない。低負荷高回数のトレーニングは、体を引き締める効果がないだけでなく、ダイエットにおける運動としても非効率的。
終わりに
重いものなんて持ちたくない、ムキムキになりたくないという女性心理に付け込んで、変な理論と共に低負荷高回数のトレーニングを勧める人というのは海外にもたくさんいるみたいで、洋書においても多くの本で、意味がないからやってはいけないと書いています。
ムキムキになったりはしないから、安心して男性と同じトレーニングをしてくださいと言っても、なかなか信じてもらえないのが現実で、フィットネス業界はビジネスの世界ですから、何とか会員になってもらおうと次から次へと変なエクササイズが生れるのでしょう。
日本でも、ライザップをはじめ筋トレをするダイエットジムが最近は流行で、多くのBefore After写真が公開されています。そのため、ダイエット目的で筋トレをしても、ムキムキにならないということが広く浸透すると思ったのですが、多くの人はあれらの写真をみてムキムキになっていると思うらしいので、この問題の根は深いのかもしれません。
なお、Bodybuilding.comにおもしろい記事があったのでリンクを載せておきます。
http://www.bodybuilding.com/fun/womens-fitness-4-reasons-the-word-toned-needs-to-die.html
タイトルは4 Reasons The Word “Toned” Needs To Die(“締まった”という言葉が死んだ方がよい4つの理由)です。