筋トレ前のストレッチは無駄どころか有害なのか


はじめに

今回は(すごい久しぶりの更新ですが)、ストレッチについてです。

最近というか、結構前から、ストレッチについては下記の意見が声高に主張されています。

曰く、運動前の静的ストレッチは怪我防止やパフォーマンスアップに効果がないばかりか有害ですらある、運動前に静的ストレッチをするのはやめて、動的ストレッチを行うべき。

しかし、現実はちょっと混乱しています。

これを受けて、運動前の静的ストレッチを一切やめて、しかも全く困っていないという人もいれば、競技レベルのハイパフォーマンスを実現しながら、従前どおりトレーニング前のストレッチを継続している人もいます。

また、静的ストレッチをやめるとしても、代わりに登場する動的ストレッチなるものが、ただのラジオ体操的な内容であり、“動的”ではあるにせよ、“ストレッチ”と呼んでいいものなのかどうかが、静的ストレッチになれた一般人にはわかりにくかったりします。

今回はそういった状況を受けて、あれこれ整理しながら、筋トレ前に静的なストレッチをするのは「あり」なのかどうかを検討してみたいと思います。

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柔軟性とモビリティ

静的ストレッチと動的ストレッチをめぐる議論のしっくりこなさの根本には、言葉の意味をめぐる混乱があるような気がします。

そこで、言葉づかいの整理から始めたいと思います。

まずは、柔軟性(Flexibility)とモビリティ(Mobility)です。この二つは似ていますし、関連していますが、違います。

なお、モビリティ(Mobility)については、“可動性”などと訳することもできるのでしょうが、今一つしっくりこないのでカタカナのままで以後進めます。カタカナ用語が嫌いな人はすみません。

まず、柔軟性というのは、なんとなくわかるかと思いますが、特定の筋肉または筋肉グループを一定方向に伸ばしたときに、どれだけ伸びるかのことを言います。

ポイントは、特定の筋肉または筋肉群(特定の部位と言った方がよいか)に注目していることです。

その点、モビリティの場合は、動作そのものに注目しています。

例えば、スクワット。

ダイエット目的で、家でスクワットでもやろうかと思い立った人が、ネットで調べた正しいフォームを実践しようとしたとします。

そうすると、初めから上手くできる人もいるかと思いますが、結構な割合で、しゃがみ始めは良いとしても、ひざをつま先のちょい前くらいで維持しながら、腰を一定以下に下ろそうとすると、ひっくり返りそうになる人や、腰が反ってしまう人がいます。

こういったときに、股関節の柔軟性が・・・とか、ひざの柔軟性が・・・とか、そういった部分部分の柔軟性の話に還元してしまうのはありがちですが、そうではなくて、スクワットならスクワットで、その動きをどれだけできるかを問題にするのがモビリティです。

柔軟性が特定の筋肉(群)を一方向に伸ばすのに対して、モビリティの場合、多関節&複数筋肉を組み合わせた何らかの“動き”それ自体に注目しています。

まあ、上記の説明からもわかるように、モビリティという言葉もあいまいであるのは間違いなく、座って足を伸ばして、前屈して手の指先を足のつま先につけようとする、いわゆる柔軟運動についても、その運動のモビリティなんて定義も理屈上もできてしまうわけで、柔軟性とモビリティの境はあいまいになってきます。

特に、モビリティの問題は、突き詰めれば最終的にどこかの筋肉の柔軟性に大きくかかわってくるのは間違いなく、上述のスクワットの例でも、確かに、股関節の柔軟性を向上すればスクワットのフォームも改善する可能性は高いです。

しかし、柔軟性の場合、特定の筋肉または筋肉グループを一定方向に伸ばすことを中心にしているのに対し、モビリティの場合は、特定の動作を完結できるかどうかを中心にしているという視点の違いがあります。

また、ややこしくなるのでほどほどにしますが、モビリティの場合、関与する複数の筋肉の内、一部は非常に柔らかいが、別の部分が硬いというアンバランスが問題を起こすこともあるので、やはり、似ているようで異なる概念です。

静的ROMと動的ROM

続いてROM。

ROMというのは、Range of Motionの略で、動きの幅、すなわち日本語で言うと可動域のことです。

じゃあ、可動域と言えばいいじゃないかと思うかもしれませんが、私はこのRange of Motionという言葉の方がしっくりくるのでROMと言います。

エクササイズを教えているときも、「バーベルを降ろすときは降ろせるところまでしっかり降ろして、バーベルを上げる時はしっかり上げ切りましょう」という趣旨の説明は、ROMという言葉を使うと、「Full Range of Motion でやりましょう」の一言で済むのに、可動域という言葉を使うと、どういう日本語にすればいいのかよくわかなくて、そういうわけでROMという言葉が好きです。

さて、話を戻して、ROMに静的と動的の二種類あるのは理解しやすいかもしれません。

野球のピッチャーなんかは、ボールを投げる時に、体全体をつかってものすごい勢いで腕をぶん回しますが、その時の肩関節の動きは、他人に詳しく説明しようとゆっくり腕を振っても再現できません。

これは、単純な足上げもそうで、ゆっくり足を上げる時よりも、勢いをつけた方が足は高く上がります。

つまり、反動を使うと、反動を使わない静的な動作を上回るROMを実現できます。

そして、怪我というものを考えたときに、問題になるのは静的ROMではなく、動的ROMです。

静的ストレッチの問題点

以上を前提にすると、静的ストレッチの問題点は、理解しやすくなります。

なお、体を温める前の静的ストレッチがよくないというのは当然の話なので特に言及しません。体が冷え切った状態でのストレッチが体に悪そうというのは直感的な理解で十分かと思います。

また、静的ストレッチに体を温める効果、すなわちウォームアップとしての効果がないのも経験から明らかであると思います。

問題は、最初にランニングなどで体を温めた後に、続けて行う静的ストレッチが、怪我の防止やパフォーマンスアップに有効ではないどころか、有害なのかという所だと思います。

有効性と有害性の二つに分けて説明します。

有効性

まず、運動前の静的ストレッチの怪我防止への有効性ですが、上述したように、様々な競技練習中の怪我で問題なるのは、動的ROMです。

疲労で下半身の踏ん張りが効かなくなっているのに勢いをつけて腕や足をぶん回したり、予期せぬ相手との接触により、自分の動的ROMを超えた動きを行ってしまうからこそ怪我につながるわけです。

したがって、確かに、準備運動として体を動かしておくのは有効であるとしても、静的ストレッチで伸ばせるのは、あくまで静的ROMの範囲ですから、怪我防止には大して役に立たないといわれます。

また、パフォーマンスアップという観点からも疑問符が付きます。

それは、パフォーマンスという点からは、その競技の動きに即した予備運動、すなわち柔軟性ではなくモビリティに着目した運動をウォームアップに取り入れる方が、効果的だと考えられるからです。

有害性

そして、さらに、静的ストレッチは怪我防止やパフォーマンスアップに役に立たないどころか、有害なのかという点です。

これは、最近の研究によると、静的ストレッチには、筋肉をリラックスさせる効果があるらしく、これをやるとその後(この継続時間が今一つ分かりませんが)、筋肉が緩んでしまい、発揮できるパワーが減るそうです。

これについては、ウォームアップを行ったからといって、いきなり100%で練習する人はいないでしょうから、その後少しずつギアをあげていって100%になるころには、言われている筋肉のゆるみとやらは解消するんじゃないかと思いますが、そこは今回の論点ではないので、筋肉が緩んでフルパワーが発揮できなくなるらしいという提示にとどめておきます。

このように、ウォームアップ段階での静的ストレッチは、怪我防止やパフォーマンスアップに有効でないばかりか、悪影響すらあるといわれています。

こうして登場するのが動的ストレッチです。

動的ストレッチとは

動的ストレッチとは、要するに、モビリティと動的ROMに着目した運動です。

その点、静的ストレッチは、柔軟性に着目した運動です。

ここから、分かりにくさが出てくるわけですが、同じストレッチという言葉を使っているのに、動的ストレッチでは柔軟性というは直接的に意識されていません(もちろんモビリティの裏側には柔軟性がある)。

要するに、動的ストレッチというのは、動的ROMを意識しますから、いきおいをつけますし、さらにモビリティを意識しますが、あくまで準備運動ですから、体の基本的な動きをするだけになっています。

そして、それが、結果としては、練りに練られた傑作であるラジオ体操に似ているから、ストレッチというイメージからは離れて少し違和感があるわけです。

動的ストレッチで、腰を回す、足をあげる、腕を回すなど、どこまで競技の動きに似せてデザインするかは諸流派がありますが、体の基本的な動きについて、動的に動かします。

そうすると、実際の動作に近い形で、各関節を動的ROMまで動かせるので、怪我防止につながるといわれます。

また、動的な動作なので(変な言い方ですが)、体が温まるので、ウォームアップにも良いとされています。

もっとも、動的ストレッチも、ただ体を動かして温めるだけでなく、モビリティや動的ROMの向上に効果があるといわれています。

これが、動的ストレッチで、以上の理由により、動的ストレッチこそが、怪我防止やパフォーマンスアップにつながるものであり、準備運動として行われるべきものであるといわれます。

なお、静的ストレッチの動作を反動をつけてやる運動を、バリスティック・ストレッチといい、これはかなり賛否両論の気がします。

動的ストレッチの中身について具体的に知りたい人には下記の三冊がおすすめ。なぜおすすめかというと、電子版は3冊とも99円だから。


格闘家の人達

さて、ある意味ここからが本題です。

競技練習において、体を本格的に動かし始める前のウォームアップ段階で、動的ストレッチのような動的な動きで体を温めつつも、静的なストレッチ(またはそれっぽい動き)をしっかりやる人達に格闘技をやっている人たちがいます。

では、彼らのウォームアップ段階での静的ストレッチは時代遅れで無意味なのでしょうか。

個人的に私はそうは思いません。

まず、組技寝技系の人達ですが、彼らには、関節技のように、練習相手の力という、自分でコントロールできない力によって、無理やり関節を伸ばされるリスクがあります。

ウォームアップ段階での静的ストレッチは効果的でないといくら言ったところで、ラジオ体操的な動的ストレッチだけをやって、関節技で関節を無理やり伸ばされる危険がある練習を始める人は皆無だと思います。

やっている人は誰だって、本格的な練習を始める前に、腕なり肩なり、自分なりに自分の柔軟性をパーツごとに確認していきたいはずですし、それは自然だと思います。

これは、打撃系の人も同じで、蹴り足を取られてひっくり返されることはよくありますし、むきになって脚や手をぶん回しているなかで、「肘や膝を伸ばしてしまって」痛めた経験は誰にだってあるはずです。

つまり、練習相手なり、むきになって我を忘れた自分自身なり、自分のコントロールできない力で動的ROMを超える動作を強制されるような可能性のある競技においては、本格的な練習前に、自分の体の各部位の感覚を確認するのは怪我防止に重要だと思います。

そして、この、体の各部位の意識付けの重要性は無視できません。
ここが、フィジカルの専門家が時々忘れがちなポイントで、彼らは筋肉の構造とか仕組みとか、体の構造を中心に物事を考えています。

筋肉が最大の力を発揮できるようにするためには、どのようなウォームアップが必要かなど、筋肉中心に命題を設定しがちで、筋肉がよく動けば自然にパフォーマンスアップが実現できるかのようなフィジカル中心のドグマに陥りがちです(もちろん間違っていない)。

しかし、競技者は、フィジカルというか筋肉という、体を構成するパーツのパフォーマンスももちろん気にしますが、競技パフォーマンスの向上こそが至上命題で、そのために一番重要なことは、自分の体を意図したとおりに動かすことです。

そのためにこそ、同じ技を延々と反復練習します。

そして、瞬発系の競技の人達においては、動的ROMのギリギリのところで体を自在に操作することが求められます。

そう考えると、ウォームアップ段階で、動的ROMと静的ROMは違うとはいえ、体の各部位の柔軟性を確認しながら、しっかりと自分の体の各部位への意識付けを行っていきたいというのは自然な気がします。

したがって、私は、ウォームアップ段階において、静的ストレッチを取り入れていても、何もおかしくないと思います。

結局、動的ROMの限界を超えるリスクが常に付きまとう瞬発系の競技をやっている人と、そのリスクがそこまで高くない持久系の競技の人では、「ウォームアップ段階での静的ストレッチは無意味だからやらない方がいい」といわれても、リアクションが違うのは当然なんでしょうね。

筋トレ前のストレッチ

では、筋トレ前の静的ストレッチはやらない方がいいのか。

個人的は、やるのは全然ありだと思います。

筋トレなんて、上述の競技ではなく、完全にフィジカルトレーニングなんだから、フィジカルに焦点を当てるのが当然で、個々の筋肉が最大のパフォーマンスを発揮できるようにするべきで、そのために静的ストレッチは避けるべき、という見解は分からないでもないですが、同意はできないです。

なぜかというと理由は2つあって、まず、バーベルやダンベルというウェイトによって、自分のコントロールできない力で強制的にROMを超える可能性がある点。続いて、正しいフォームのために使う部位にしっかり意識付けしたいというのは自然だと思うからです。

この2つは、2つのようで1つの気もしますが、一応分けておきます。

1点目は競技の場合と同じで、やはり柔軟性を確認して意識付けしておかないと怖いというのは自然だと思います。

大事なのは、2点目でしょう。

筋トレをする人は誰でも、正しいフォームというものを気にしているかと思います。

そして、別の記事に書いたかもしれませんが、正しいフォームというのは、外見的なものというより、内面的なものです。

最初の内は、膝の位置や肘の位置を指標にしてフォームを確認したり、トレーナーについてもらって自分が正しいフォームで出来ているかどうかをチェックしてもらいたいと思うのはやむを得ないかもしれません。

しかし、最終的には、自分が狙った部位を動かせているかどうか、それを自分で意識できているかがポイントで、つまり、正しいフォームで出来ているかどうかは、他人に見てもらって初めてわかるものではなく、むしろ他人からは分からないもので、自分で出来ていると納得出来ていれば出来ています(危ない説明ですが)。

そう考えると、正しいフォームでトレーニングできるからどうかは、自分の体の各部位の動きを頭でしっかり意識できるかが重要ですから、トレーニング前に静的ストレッチ的な動作で、各部位の動きを確認するというのはありだと思います。

まとめると

静的ストレッチは柔軟性に注目しており、モビリティと動的ROMをあまり意識していない。

したがって、パフォーマンスアップ(モビリティの向上)や怪我防止(動的ROMの準備運動)という観点からは、動的ストレッチの方が優れている。

しかし、自分のコントロールできない力で動的ROMを超える可能性のある格闘技のような瞬発系の運動では、運動前に各部位の意識付けをしておくことは、怪我防止につながると考えられる。

また、競技練習の第一目的がスキルアップであることを考えると、各部位への意識付けは重要と思われる。

したがって、ウォームアップの段階で、体を温めた上で静的ストレッチのような運動をすることはあながち間違っているとは思はない。

もっとも、だからと言って、解剖図を見ながら各部位を順番に伸ばしていくことに意味があるわけではなく(寝技系格闘技などで結果としてそのくらい詳細になる可能性はあるにせよ)、モビリティと動的ROMの観点から、競技の動きと自分の意識付けを鍵にしてメニューを組み立てるのがいいと思います。

さらに、怪我防止という観点からは、実際の競技の動きにおける動的ROMこそが重要なので、静的ストレッチか動的ストレッチかという問題より、ウォームアップ後いきなり100%ではなく、少しずつギアをあげていくことこそ重要だと思われる。

なお、この記事では、トレーニング前半で行うウォームアップとしてのストレッチを前提としています。柔軟性を高めるためにストレッチを行うのであれば、トレーニング後やふろ上がりなど、体が温まった状態で、のんびりやっていくのが良いかと思います。

おわりに

今回は、ストレッチについて書いてみました。

私自身体は堅いし、ストレッチ嫌いなのですが、今年の目標は体を柔らかくすることなので、調べたことや考えたことをせっかくだからまとめてみました。

ストレッチでは、気持ちいいレベルまで伸ばすのが重要で、痛いと感じるところまで伸ばそうとすると体は抵抗しようとして硬くなって、かえって逆効果という定説があります。

しかし、以前、オリンピックのメダリストなどを多数輩出している、名門の体操教室のドキュメンタリーを見たことがあって、その中で、大人のコーチが、泣きわめいている小さい女の子を押さえつけて股割しているシーンがあったことから、私は巷に出回っているストレッチ情報は定説と言われているものさえ信じていません。

そんな私の、かなり個人的な意見なのでお手柔らかにお願いします。




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