はじめに
今回と次回でダイエット停滞期の原因と対策について説明したいと思います。今回が原因で、次回が対策です。
ネットなどを見ていると悩んでいる方も多いみたいですが、ダイエットの停滞期は、科学的に見てみれば起きるのが当然の現象です。したがって、そこで必要なのは科学的な対策です。
「ダイエットは人生のようなもの。うまくいくときもあればうまくいかない時もある。重要なのは一喜一憂せずに継続すること。」という種類のアドバイスを聞いて、根性で継続するというのは良策ではありません。
原因を理解したうえで、対策を練る必要があります。まず、原因をしっかりと理解しましょう。
体重変動の大原則
まず、体重変動の原則を再確認します。
消費カロリー>摂取カロリーであれば体重は必ず減ります。エネルギーが足りなければ、脂肪や筋肉を分解してエネルギーにするしかありませんから、体重は減少します。
その一方で、摂取カロリー>消費カロリーであれば体重は必ず増えます。エネルギーとして使われなかったからといって、口に入れたものが消えてなくなることはありませんから、筋肉なり脂肪なりになってその分体重は増えることになります。
これはエネルギー保存法則という物理の大原則ですから絶対のルールです。消費カロリー>摂取カロリーにしたのに体重が減らなかったという人は、特殊な体質なのではなくて、計算が間違っています。消費カロリー>摂取カロリーになっていないのです。
ダイエット停滞期
ダイエット停滞期というのは、最初は体重が減ったのに、途中から減らなくなった状態を言います。特に、食事制限や運動習慣を最初と変えていないのに体重減少が止まるから不思議に感じられます。
もっとも、上に書いた体重変動の原則は絶対の物理法則ですから、これを当てはめて考えると、ダイエットの停滞期というのは、最初は消費カロリー>摂取カロリーだったのが、いつのまにか消費カロリー=摂取カロリーになって、カロリー不足が解消してしまった状況を言います。
ここで、食事制限が我慢できなくなって食べたいだけ食べてしまったというのであれば、不思議でもなんでもありませんし、それは停滞期ではありません。
つまり、ポイントは、食事制限も運動習慣も変えてないのに消費カロリーが下がるという点にあります。
いったいこの原因は何でしょうか。
体重減少自体を理由とする消費カロリー減少
面白い実験がアレックス・ハッチンソン著の『良いトレーニング、無駄なトレーニング』草思社(この本は読み物としても面白い)で説明されているので紹介したいと思います。なお、私なりのわかりやすいを心がけて説明を少し変えています。
消費カロリーと摂取カロリーが共にぴったり合っている人がいるとします。こういう人は、教科書にしか出てこない人ですが、体重の増減はないはずです。
ここで、この人が毎日の摂取カロリーを45kcal減らしたらどうなるかという話です。
分かりやすくするために、すべて体脂肪が減少すると仮定すると、脂肪1gは9kcalですから、理論的には毎日5g体重は減るはずです。
しかし、そうは問屋が卸さないというのが2010年に出された論文で証明されたというのです。
その理由は、体重が減るということは、体の組織が小さくなったり減ったりすることであり、その分だけ新陳代謝に必要なエネルギーが減って、消費カロリーが減るからとのことです。
その論文の実験結果を上の例に適用すると、1日5gだから1年で約1.8kg減るはずが、実際には体重が減少するとともに消費カロリーも減少して、体重減少のスピードはどんどん遅くなり、約1.8kg減少するのは数年後になります。
さらに、体重が1.8kg減った時点で、ついに消費カロリーも45kcal減少し、体重減少が停止することも明らかにされています。
つまり、体重が減少するとその分だけ消費カロリーも下がるということです。これはダイエットに停滞期が来ることの必然性を裏付けています。
カロリー不足による消費カロリー減少
上記ハッチンソンの本に、別のおもしろい実験も紹介されています。
カロリー計算を正確にするために被験者は流動食だけを用いた食事制限をして、体重を増やしたり減らしたりした実験で、体重の減少にしたがって、筋肉の効率が高くなることが明らかになったそうです。
筋肉の効率が高くなるというのは少し分かりにくい表現ですが、筋肉の効率が高い=低燃費で動く=日常生活の消費カロリーが下がる、ということです。
これは、前の実験のような、体のボリューム(組織)が減ったことにより新陳代謝が下がったというのとは別に、筋肉の稼働率が下がったことによる消費カロリーの低下です。正確にいうと、炭水化物や脂肪を燃やす酵素の割合に変化が見られたそうです。
つまり、摂取カロリーを減らして体重が減っていくとそれに伴って、体は筋肉の動かし方を低燃費モードに変え、結局のところ消費カロリーが下がるわけです。
摂取カロリーを減らすと、体はそれに適用して低燃費運転になるという結論だけ取り出すと自然な気もします。
これも、ダイエット停滞期の必然性を裏付けた実験と言えます。もっとも、体重減少が止まるとまでは言っていないので、一つ目の実験の効果を加速させるという理解が正確でしょう。
ホメオスタシスについて
ダイエットの停滞期は体のホメオスタシス(恒常性維持機能)という観点から説明されることが多いと思います。
しかし、個人的にこの説明は少し結果論すぎかなと思います。
確かに、上記の実験の通り、体重を減らそうとすれば、また、実際に体重が減れば、消費カロリーが減ってカロリー不足が解消されますから、いずれ体重減少が止まります。これは必然的に起こります。
この現象を“体がダイエットに抵抗している”と捉えるも可能でしょう。
しかし、この結論を最初にもってきて、「体にはホメオスタシスという現状を維持しようとする機能(恒常性維持機能)があるから、ダイエットという体重減少に向けた現状変更行為に対抗しようとして、代謝を下げる。その結果ダイエットは停滞する。」と説明をすると、原因と結果が混同しているように感じられます。
もちろん、言っていることは間違いではありません。
個人的にはもっと素直にプロセスベースで理解しても良いのかなと思います。
個人的にはこのように考えた方が、筋が良いのかなと思います。何よりも、結果として、消費カロリー>摂取カロリーの関係が崩れていることを認識することが重要です。
停滞期を打破するためにしなくてはならないことは、もう一度消費カロリー>摂取カロリーにもっていくことであって、ホメオスタシスなる嵐が通り過ぎるのをじっと待つことではありません。
ホメオスタシスからダイエット停滞期を説明することは間違いではありませんが、「数週間するといずれまた体重は減少しはじめるから、あわてずにダイエットを継続するべき」というのはどうかと思います。
体重減少が止まった時に、何も変えないのに、しばらくするとまた体重が減少し始めるというのはホメオスタシスの否定そのものです。
少なくとも私の持っている本の中で、ダイエットが停滞したときに「がんばれ、何もするな」とアドバイスしている本はありません。
有酸素運動の適応
ダイエット停滞期の原因は上記の2つに尽きるのですが、停滞期対策を述べる都合上、もう一つの原因を説明します。
有酸素運動も始めた当初に比べて、慣れてくるにしたがって体が適応して、同じ運動でも消費カロリーが下がってくるという話です。
これは意外に指摘されることがなくて、私の知っている限りクリス・アセートくらいしか言ってないのですが、これは本当だと思います。
もちろん、毎回心拍数をモニターしながらトレッドミルをやっている人は大丈夫でしょうが、“毎日30分ジョギングをしている”とかであれば、始めた時に比べて、間違いなく消費カロリーは落ちているはずです。
体重何kgだとジョギング1時間何kcalといった情報がありますが、あれは目安です。やったことある人ならわかるように、初めてやるときと慣れてきた時で疲れは全然違います。疲労が減ったということはそれだけ消費カロリーも減ったと考えて間違いありません。
したがって、同じ運動を続けているのに体重が減らなくなったという場合、停滞期というよりも、始めたころよりも有酸素運動になれて、同じ運動でも消費カロリーが減った可能性があります。
まとめ
ダイエットが進むにつれ消費カロリーが減少することは科学的に証明されています。したがって、ダイエットが停滞するのは科学的にみて当然の現象ですし、その理由も理解してしまえばごく自然なものです。
いずれにせよ、体重が減らないということは、摂取カロリー=消費カロリーになってしまったということなので、停滞期を乗り切るには、摂取カロリーを追加で減らすか、消費カロリーを増やすかしか方法はありません。
ではどうすればよいのか。次回説明したいと思います。
参考
今回参考にしたのは下記の本です。
アレックス・ハッチンソン著 児島修訳 『良いトレーニング、無駄なトレーニング』草思社
クリス・アセート『ダイエットは科学だ』体育とスポーツ出版