はじめに
女性が筋トレダイエットをする時に一番多い間違いは軽いウェイトを使うことです。
軽いウェイトを使うことがなぜ間違いかというと、それは、軽いウェイトでは筋肉成長のスイッチがオンにならないからです。
しかし、この説明に出てくる“筋肉成長”という言葉が女性に対してはNGワードであり、多く女性が、「私は痩せたいのであって、筋肉の成長など求めていない」と反発します。
上記の“正しい説明”を聞くと、女性は、目の前にいる筋肉マンの言うことを聞いて重いウェイトなんて使ってしまうと筋肉が成長して、ムキムキやボコボコした体になってしまうと無意識のうちに不安を感じるようになります。そして、いわゆる筋トレ好きな人とは目指している体が違うので、女性専門のムキムキでないトレーナーの指導を受けたいと思うようになります。
最終的に、「引締め目的の場合は軽い重量でOK」といった、お金に魂を売ったトレーナーやろくに筋トレをしたことないトレーナーが出てきて、よくわからないトレーニングをして、体は何も変わらず、結局私には筋トレは合わないとなって、筋トレから離れていきます。
女性が締まったスリムな体を目指してダイエット目的で行うべき筋トレと男性がムキムキのボディビルダーを目指して行うべき筋トレはほとんど同じです(初級中級上級といった区分を除いて)。これが信じられないという気持ちはよくわかりますが、これを理解していないからこそ、筋トレを始める人の多くは結果が出ないで終わります。
怪我するような高重量を扱う必要はないですし、重量挙げのように自己記録に挑戦する必要などはありませんが、筋トレをするのであれば、そこそこの重いものを持って基本種目を行う必要があります。
これを理解するための最大のポイントは、筋肉の成長とは女性がイメージするムキムキになったり、体がボコボコしたりすることを意味するわけではない点です。
この筋トレダイエットの理論上の最難関ポイントを丁寧に説明したいと思います。
体の仕組み
下記の絵はこのブログでは、3回目ぐらいですが、再掲します。
食事で食べた分だけ体重は増えて、エネルギーとして消費した分だけ体重は減ります。1日はこの繰り返しです。
しかし、実際の体重増減には内訳があります。脂肪と筋肉です。つまり、体重増加は脂肪の増加と筋肉増加からなり、体重減少は脂肪減少と筋肉減少から構成されています(ここで、グリコーゲンの補充及び消費については体重の増減にほとんど影響ありませんから省略します)。
内訳は下記のようになります。
さらに、最初の絵を修正すると以下のようになります。
この絵を頭に入れておく必要があります。
なお、基本的に成長期を過ぎた大人の体は成長しませんから、新陳代謝の結果筋肉の量というのは変わりません。栄養不足になれば当然筋肉は減少しますが、栄養過多になっても筋肉は必要量しか維持されません。焼き肉に行ってたくさん肉を食べたからといって筋肉が増えることはありません。既存の筋肉の新陳代謝に必要な分以外は脂肪になるだけです。
有酸素運動の効果
まず、有酸素運動を行うと何が起きるのか見てみます。
まず、有酸素運動をするとその分消費エネルギーが増えますから、何らかの形で体が分解されて体重が減ります。
絵にすると以下のようになります。
ここでポイントが2つあります。
1つ目は、有酸素運動をしても、体重増加プロセス(カロリー摂取)に影響はありません。
有酸素運動をしたところで、食事で口に入れたものの行き先は変わりません。まず、有酸素運動で使用されたグリコーゲンが補充され、新陳代謝に必要な分は筋肉に行き、そして、余った分は脂肪になります。それだけです。
つまり、筋肉の新陳代謝への影響は一切ありません。
運動不足の人がジョギング等を始めた場合に、最初のころは筋肉痛になって少し筋肉がつくかもしれませんが、それは有酸素運動といえども、運動不足の人にとっては筋トレ的な要素があるからです。
しかし、毎回、距離を延ばす、時間を延ばす、スピードを上げると言ったことをしない限り、いずれ慣れてきて、筋肉痛にはならなくなります。毎日駅から家まで歩いても日に日に足が太くなったりはしないのと同じです。
2つ目のポイントは、消費エネルギーが増えて体重が減少する場合、脂肪と共に筋肉も分解されるという点です。
脂肪が燃えている時には必ず筋肉も減少します。もちろん、脂肪が分解されるのが原則ですから、肥満体型の人であればほとんど燃えるのは脂肪ですが、ある程度体脂肪率が下がっていくと、筋肉の分解は加速します。
筋肉の分解割合はその時点での体脂肪率と遺伝的素質(筋肉質の人かどうか)に依存します。ここを運動で変えることはできません。
つまり、有酸素運動をすることで、消費エネルギーを増やし体重を減らすことはできますが、体脂肪率を操作することはできません。
体脂肪率が、個人の遺伝的素質によって決められたある点にくると、脂肪と共に筋肉の減少も加速し、体脂肪率は下がらなくなります。体重が減ると言っても、ふくよかなまま一回り小さくなるだけです。
体重減少を引き起こすのはカロリー不足であり、そのような状況で、私たちの体は筋肉質の燃費の悪い体になろうとはしません。カロリー不足の状況では、筋肉が少なく低燃費でかつ予備エネルギーをため込んだ体が適しているからです。サルから始まって現代にいたるまでの数千年の食糧不足時代を生き抜いたのはそういう遺伝子を持ったヒトのみであったということもできます。
筋トレの効果
では筋トレをすると何が起こるのでしょうか。
生理学的には、筋トレというのは、筋肉を損傷させる行為そのものです。
筋肉に小さな傷がつき、筋肉が動かなくなります。そして、体は筋トレ後に筋肉の損傷を回復しようとします。さらには、より強い体を目指して体は筋肉を成長させようとします。再度同じ刺激が来た時に、体が傷つかずに乗り越えらるようにするためです。
何が起こっているかというと、壊れた筋肉を新しい筋肉に作り替えることなのですが、この時筋トレ前よりも少しだけ強い筋肉になります。
このプロセスこそが筋肉の成長と呼ばれているものです。
そして、壊れた筋肉を修復するプロセスは、新しい筋肉を作るために通常の新陳代謝以上の栄養を必要としますし、それ自体それなりにエネルギーを消費します。
筋トレにより代謝が活性化するというのはこのことを言っているのであり、通常の新陳代謝に加えて、筋トレで壊れた筋肉の修復作業まで起こるからです。
筋トレをすると、筋トレ後の安静にしている時でさえも通常以上のカロリーを消費するというのは、筋トレ後の安静にしている時に、傷ついた筋肉の修復作業が進むからです。
その結果、先ほど載せた絵は下記のようになります。何が変わったかというと、食べたものが、通常の新陳代謝だけでなく、筋肉の修復のために送られるようになります。
ここで、食事量を一定とすると、筋肉に送られる量が増えるということは、余った分として体脂肪になる量が減るということです。
血流に乗った栄養を、活性化した筋肉が積極的に吸収するわけです。
結局全体像は下記のようになります。
ここで、筋トレをしても、消費エネルギーにはあまり影響がないことを確認してください。エネルギー消費のプロセスでは脂肪だけでなく筋肉も減少しますし、その割合に変化はありません。この割合は、遺伝的素質とその時点での体脂肪率によって決まるものだからです。
もちろん、筋肉の修復プロセスはエネルギーを消費しますから、消費エネルギーは増えます。
その点を抜き出すと以下のようになります。
なお、筋トレによって代謝が活性化し消費エネルギーが増えるというのは紛れもない事実であり、筋トレのメリットの一つですが、筋トレにより消費カロリーがどれだけ増えるかという議論はあまり筋の良いものではありません。有酸素運動と筋トレを比べて、どちらの消費カロリーが大きいかといっても、それは量の問題ですから、どれだけ有酸素運動をするかの問題です。
ジョギングかサイクリングかといった議論と並列に筋トレを置いて、消費カロリーの大小を比較しても意味がありません。筋肉を使う運動なのか、筋肉を損傷させる運動なのかという点で全く質の異なるものだからです。
筋トレの効果は、摂取エネルギーの行き先を変える点にあるのです。
筋肉成長の必要性
いろいろと説明して話の前提がそろったので、ポイントに入ります。
筋トレをして筋肉成長が始まっても体重が減少するような状況では筋肉は増えません。
確かに、筋トレをすると摂取したカロリーの多くが筋肉に送られるようになります。しかし、体重が減少するような状況(消費カロリー>摂取カロリー)では、消費エネルギーに充てるために分解された筋肉量を上回る筋肉成長が起こることはありません。
ここはグロス(両建て)のプロセスです。体は筋トレ前より強い筋肉を作ろうと全力を尽くすのですが、両方同時に起こる結果をネット(純変動)にするとトータルで減少するという話です。
筋肉成長プロセスが始まると言っても、だからといってトータルの筋肉量は増えません。あくまで、摂取カロリーのうち筋肉になる量が増えるだけであり、消費カロリーのうち筋肉分解量を上回ることはありません。
つまり、筋トレダイエットの目的は、体重が減少させながらも筋肉減少割合を低くして、できる限り脂肪のみ減らすことで、体脂肪率を低くして締まった体を実現することです。
そのためには、通常の場合よりも筋肉に栄養が流れる状況を作り出さない限り、筋肉減少割合を減らすことはできません。そして、筋肉に栄養が流れ込む状況こそ、筋肉が成長する状況であり、重い重量を使って筋トレして筋肉を損傷させるからその状況になるのです。
軽い重量でいくら筋トレ風の動きをしたところで、筋肉を損傷させなければ、筋肉の回復成長は起きません。ただ単に、筋肉を動かすために使われたエネルギーが補充されて終わります。
そういう意味では、軽いウェイトの筋トレは有酸素運動を行ったのとまったく同じ効果ですが、全身を使う有酸素運動と異なり、筋トレ種目は基本的に限られた筋肉しか使いませんから、消費カロリーはとても小さく、同じ時間散歩しているほうが遥かにましという結論になります。
以上が、ダイエット目的の女性であっても、ある程度の重い重量で筋トレをして筋肉の成長プロセスを引き起こさないと意味がない理由です。
終わりに
筋トレをする以上、筋肉成長を引き出すだけの強度が必要ですが、だからと言ってそれがムキムキを目指すことにつながるわけではありません。
体重減少に伴い、脂肪と共に減っていく筋肉の減少量を最小限に抑え、体脂肪率を下げ、締まった体を作るには、栄養が筋肉に優先的に流れるモード(筋肉成長モード)を作る必要があり、そのためには、高重量の筋トレで筋肉を損傷する必要があるのです。壊れたからこそ、修復プロセスが始まり、材料たる栄養が流れ込むのです。
しかし、そもそも摂取カロリーを抑えてカロリー不足の状況が前提にあるのであれば、体を分解して足りないエネルギーを補っている状況ですから、トータルで筋肉が減少するのは当然であり、ムキムキになったりはしません。
体重が減少するだけの食事管理をしているのであれば、筋肉成長を引き出すだけの重い重量を扱うべきなのです。
基本的に、ブログの他の記事で説明している点の焼き直しでしかないのですが、角度を変えて説明してみました。