糖質制限ディープダイブ:体重変動のみ


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はじめに


今回は、糖質制限に関するいくつかの代表的な書籍を参考に、糖質制限の効果について、体重変動だけの視点で考えてみます。

体重変動のみを抜き出して考えるのであって、体重変動のみをもって糖質制限食なる食事法全体の是非を結論付けたいわけではありません。ましてや糖尿病治療の方法としての是非などといった完全に範囲外のことについてコメントする気は毛頭ありません。

糖質制限関係の一般向けの本をいくつか読んでみたのですが、議論がどうもごちゃごちゃしているように感じるので、スコープを絞って自分なりに考えてみるというだけです。

糖質制限に関する議論の中心は、糖尿病治療方法としての糖質制限食の有効性や従来のカロリー制限食との優劣といった、完全に医療の世界の話であるにもかかわらず、その中に、糖尿病患者以外の一般人を対象として、成人病予防やダイエットにも有効なんて意見が出てくるせいで、どの本も非常に分かりにくい構造になっているような気がします。

そこで、糖尿病云々はさておき、とりあえず体重変動だけ抜き出すとどうなるかを考えてみようと思いました。

そうすると結構面白くて、反対派にとっても賛成派にとっても、重要な論文というのは同じらしく、同じ論文を引用しながら別の解釈をしていたりします。

このブログの他の記事を読んだことがある人はご存知だと思いますが、私には、正直なところ、糖質制限の有効性とかよりも、同じ論文を巡って解釈が分かれているという事実の方が面白いわけです。

そこで、代表的な(より正確には私が勝手に代表的だと思う)書籍が、同じ論文をどう紹介しているかを検討して、自分なりの結論を出してみたいと思います。

注意点


この記事は、下記の参考文献を読んで私が考えたことを述べているだけであり、他の本に私の知らない真実が書いてあるかもしれませんが、全部読む時間はないので、そこら辺は特に気にしていません。

また、以下で検討する論文の内容について私が知っているのは、参考文献で紹介されている事実のみです。原文は読んでいません。

なお、以下では、参考文献の著者を、岡本先生、江部先生、山田先生と呼びますが別に知り合いでも何でもありません。お医者さんだから先生つけて呼ぶだけです。

参考文献


いずれも良い本ですが、読んですぐにインチキだとわかるトンデモ本ではなく説得力がある本なので、一冊だけ読むのはある意味危険かもしれません。

『本当は怖い「糖質制限」』岡本卓著 祥伝社新書

『江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか?』江部康二著 洋泉社

『糖質制限の真実』山田悟著 幻冬舎新書

論文1


「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」という、文句なく一流の論文誌(山田先生いわく世界ナンバーワンの臨床医学雑誌)の2008年7月17日号に載せられた論文。

イスラエルで行われた実験で、322人を以下の3つのグループに分け2年間の体重減少を追跡。

①低脂肪食グループ
脂質は総摂取カロリーの30%以下に制限し、男性の場合は1800kcal、女性の場合は1500kcalに制限。

②地中海食グループ
総摂取カロリーは男性1800kcal、女性は1500kcalに制限するも、脂質は総摂取カロリーの35%以下として、オリーブオイル、ナッツ、魚介類、果実を中心とした、いわゆる良質な脂質は比較的多めにとる食事。

③糖質制限食
総摂取カロリーに制限なし。1日の炭水化物摂取量を最初の2か月間は20gに制限し、その後少しずつ増やして最終的には120gとする。

体重変動の結果は以下のような感じになっています。

論文1

以上が論文の結果です。グラフは私の手書きですから、あくまで概要です。

論文1について


まず、24か月後の体重減少について、糖質制限が一番減少幅が大きかったというのは間違いのない事実です。

ただ、山田先生の本では、具体的な数字が一切登場せずに、糖質制限が一番効果があったという報告が世界ナンバーワン臨床医学雑誌に掲載された、といった説明をしており、具体的な数字をだしていません。

山田先生は、著書の中で、科学的根拠との付き合い方を説明する節を設けて、エビデンスレベルという、科学的証拠の信頼性の程度の話をします(レベル1が一番高い)。

そして、なんと、かつて糖質制限に疑問を投げかけるエビデンスレベル2の報告があったのに、エビデンスレベル4で『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』という本で戦いを挑んだ、科学的根拠に基づく医療という考えを知らない医者がいて、かえって糖質制限に疑いを向けられることとなったことがあるなどと語り、事実上名指しで江部先生を批判したりします。

つまり、山田先生のロジックというものは、科学的根拠にはエビデンスレベルという明確な指標があり、糖質制限についてはレベル1の証拠が世界ナンバーワン雑誌に出たのだから、糖質制限が有効であるというのが科学的な結論であり、反論するのは科学的ではないという形式的なものです。さらに、著書の中でその点ばかり説明して、肝心の論文の中身はろくに説明しないというちょっと不親切なものです。

その点、江部先生の本では、上記の私の手書きグラフような概要ではなく、論文に基づいた時系列の体重変化の正確なグラフを載せ、具体的な数字を明記したうえで、体重減少に関しては糖質制限が最も効果が高いことが分かったと述べています。

もっとも、江部先生もデータは示しているものの、その結論のみをもって、体重減少においても、糖質制限が一番有効であることが証明されたとしているだけです。

何を言いたいかというと、山田先生、江部先生とも、結論を述べるだけで、データ解釈についてはノーコメントです。

もっとも、アンチ糖質制限で、地中海食推しの岡本先生が、-4.7kgと-4.9kgを比較して優劣つけるような、結論に黙っているわけはありません。

江部先生と山田先生が引用していない事実をもってきて反論します。

まず、この実験の被験者の平均BMIは31で、平均体重が91kg以上というかなり肥満した人たちが参加者である点を指摘し、2年間頑張っても、食事法だけでは、せいぜい3kgから5kgしか痩せないのかという、ある意味もっともな視点を提供します。

これは、糖尿病治療にはカロリー制限よりも運動を取り入れた方が効果的であると考えている岡本先生らしい視点と言えますが、たしかに、2年間で5kg減量とか3kg減量とかで競争するのは少し違和感があります。食事だけでも、もっと痩せると思っているのは私だけでしょうか。

さらに、岡本先生は、この実験の男女比という面白いデータを持ち出します。

ポイントは、参加者は女性45人、男性277人で、男女比が相当偏っているという点です。

そして、実験結果を男女別にみると、女性の体重減少幅は、低脂肪食0.1kg、地中海食6.2kg、糖質制限食2.4kgとなり、男性の体重減少幅は、低脂肪食3.4kg、地中海食4.0kg、糖質制限食4.9kgとなります。

実験結果という事実の話をしている以上、たらればを言い出すのはルール違反ですが、上記の男女別結果を見る限り、男女比を整えると、地中海食に軍配が上がった可能性があります。もちろん、女性は45人しかいませんから、上記の平均値はあまり参考にならないとも言えます。

さらに、反撃の手を緩めることなく、追加のデータを出します。

それは、各グループの平均摂取カロリーです。

最終的に、低脂肪食は1347kcal、地中海食1356kcal、糖質制限食1281kcalとなっているそうです。

もちろん、各グループ参加者の体重や生活状況(つまり消費カロリー)が異なる以上、摂取カロリーの比較に何の意味があるかは微妙ですし、そもそもそこまで大きな差がなかったとも言えますが、事実としては、糖質制限食グループは摂取カロリー自体も一番小さかったわけです。

つまり、岡本先生は、上記の論文からは糖質制限食が他の食事より体重減少効果が高いとは結論付けられないという主張しているわけです。より厳密に言うと、食事法以外に影響を与えた事情があると主張しているのだと私は思います。以下でもう少し詳しく説明します。

論文2


これは、2007年にJAMAというこれまた文句なく一流の医学雑誌(山田先生いわく世界ナンバー3)に発表された論文です。

これは371人の女性を食事別の4つのグループに分けて体重減少を1年間追跡するという実験です。

①糖質制限グループ
1回の炭水化物量20g以下。最終的に糖質からのカロリー摂取は17%。
②ゾーンダイエット
炭水化物:たんぱく質:脂質を4:3:3とする。1回あたり500kcal以下として、間食も含めて1700kcal以下とする。最終的に糖質からのカロリー摂取は42%。
③ラーンダイエット
食事量を減らして運動を行う。目標は1日1200kcalに設定。最終的に糖質からのカロリー摂取は50%
④低脂肪グループ
一日の摂取カロリーに制限を加えないものの、脂質からの摂取割合を10%以下に抑える。最終的に糖質からのカロリー摂取は63%。

結果の概要は以下の通りです。

論文2

以上が論文で報告されている実験結果です。

論文2について


やはり、こちらの実験でも糖質制限食が一番体重は減少しました。正直、残りの3つが何をしようとしているのか今一つ良く分かりませんが、糖質制限の結果はダントツです。

この論文に関して、あいかわらず山田先生は、世界ナンバー3の臨床医学雑誌に、糖質制限食が体重減少に一番効果的であるといった論文が掲載されたと紹介するのみで、具体的な内容は紹介していません。

江部先生は、糖質制限食の体重減少効果を証明した論文として、より詳細なグラフとともに最終的な体重減少の数字を上げてこの論文を挙げています。もっとも、グループ分け方法と体重減少の数字のみのあっさりした紹介しただけで、体重減少において糖質制限は一番有効であるとしています。

さて、岡本先生です。

まず、体重減少について、数字だけ見ればこの論文では糖質制限に軍配が上がることを認めます。もっとも、それでは終わりません。

まず、同じJAMAという雑誌に2005年に掲載された、似たような4つのグループ分けをした実験の結果を持ち出します。その論文の結論は、「1年での体重減少に変わりはなく、重要なのは、その食事法を守れているかどうかだ」というものだそうです。

そして、肥満の人が1年間頑張っても食事だけでは5kgしか痩せないという論文の結論を強調し、結局はライフスタイルこそが問題なのだという点を主張するために、いくつかの論文を持ち出します。

ちょっと話が分かりにくくなったので、私流に補足すると、岡本先生が主張するライフスタイルが重要という指摘が何を言っているかというと、実験の参加者たちがどの程度食事制限を守ったかわからないから論文の結果から食事法の優劣を取り出すのはおかしいという主張だと思います。そこまで言ってないと本人に怒られるかもしれませんが、そう解釈しないと、以下の論文の引用が反論にならないと思います。

まず、2010年のアナルズ・オブ・インターナル・メディシンという雑誌に掲載された論文を引用します。

それは、307人の肥満(BMI36)の人たちを参加者として、糖質制限食と低脂肪食で分けて、カウンセリングを1年に33回も行う、つまり、カウンセリングを徹底するというものです。守るべき食事法を提示するだけでなく、徹底してカウンセリングを行うのが実験の特徴です。


その結果、1年間に両グループとも11%の体重減少があり、2年後も7%の体重減少が継続し、さらに二つの食事療法では体重減少効果に差はなかったというものです。

つまり、問題は食事療法にあるのではなく、どれだけそれを徹底しているか(ライフスタイル)にあるという事実を指摘した論文です。

さらに、2010年の別の論文を紹介します。

それは、2型糖尿病の患者を対象に行った実験で、低資質食と低糖質食に分けて、ライフスタイル改善のプログラムを緩やかにしか行わなかったところ、2年間での体重減少は、低脂質食で0.2kg、低糖質食で1.5kgという惨憺たるものであったという実験です。

さらに、これまたニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された2009年のもう一つ論文を紹介します。

811人を対象にして、①脂質20%たんぱく質15%炭水化物65%、②脂質40%たんぱく質25%炭水化物35%、③脂質20%たんぱく質25%炭水化物55%、④脂質40%たんぱく質15%炭水化物45%の4つのグループに分けます。

そして、いずれもカロリー制限を課し、強力なカウンセリングを最初の6か月に22回行うというものです。

そうすると、カウンセリングを徹底した最初の6か月は平均で6kg減少しますが、2年間の平均では、リバウンドが起こり、約3kg程度になり、しかも、各グループで差異が見られないというものです。

結局、言いたいことは下記の通りだと思います。

大事なのは、カロリー制限を守るかどうかであり、守っている限り糖質の割合は体重減少とは関係なく、糖質制限によって、初期に体重が減少するのは、単に糖質制限を始めると摂取カロリーが大幅に減るだけだという主張です。

実験の信頼性


上記はできる限り、書籍に忠実に紹介したつもりですが、ここからは私の客観的思考という名の主観全開で行きます。

論文について考察すると、私は岡本先生の意見が正しいと思います。

この2つの論文の最終的な体重減少幅をもって、食事方法のダイエットへの有効性を順位付けたり、結論付けたりするのは問題ありだと思います。

何故かというと、肥満の人を対象としつつも2年間で5kgも減量しないというのは、論文の信頼性が低いとは言いませんが、参加者が制限を守っていないとしか考えられないからです。

考えてみると、適当な施設に行って、いきなりくじ引きして、お前は明日から2年間糖質制限だとか、2年間低脂質だとか言われて、お金をもらえるとしてもそんな実験が高い精度で成立するはずないと思うのは学者に対して喧嘩を売り過ぎでしょうか。

もちろん、ある程度はちゃんとやっているのでしょうが、そうはいっても、肥満の人が対象で、2年間あれば、糖質制限だろうがカロリー制限だろうが、10kg以上食事だけでも落とせると思います。カロリー制限で、肥満の人が2年間で3kgしか痩せられなかったというデータはどう考えてもおかしいと思います。

糖質制限派の人としても、その有効性を裏付けるデータとして、2年間で肥満の人が4.7kg痩せたというデータでよいのでしょうか。寿司もパスタもラーメンも食べないようにすると、2年間で追加で2kg痩せられるといった程度の有効性なのでしょうか。

この論文の結論としては、どんな食事制限も、徹底しなければ大した効果は得られないという岡本先生の考察の方が筋は良い気がします。

さらに、岡本先生が持ち出している論文の、カロリー制限してそれを守らせるようにガッツリとカウンセリングしたら、どんな食事バランスであれ同じように痩せたというのは説得力ある気がします(この論文に極端な糖質制限が入っていないのが惜しいですが)。

いずれにせよ、この論文の結果には、参加者がどの程度指示を守っているのかという点で疑問が残りますから、実践性を除いて、食事療法のみの効果という結論は出せないと思います。

もっとも、最終的に、糖質制限食の方が体重減少幅が一番大きいのも事実です。また、実験初期に糖質制限でがくんと体重が減少する理由(とその後リバウンドする理由)は何でしょうか。

そこら辺を考えてみます。

カロリーが全て


まず、糖質制限の方が最終的な体重減少幅が大きいのは確かであり、その理由は何でしょうか。

これについては糖質制限派の江部先生自身がはっきりと結論を出しています。

江部先生は、他の糖質制限派の変な人達と違って、カロリー収支が体重変動を決めるという点をしっかり示していて、脂質の代謝の悪い人には、糖質制限に加えてカロリーコントロールを勧めるなど、カロリーについては真っ当なことを言っています。

一部の糖質制限派が主張するような、体重を決めるのは炭水化物であって、カロリーは関係ないなんて言う荒唐無稽の主張からは一線置いています。

具体的には、

また、前述のダイレクト試験でも明らかなように、糖質制限の場合、肉や魚がしっかり食べられるので満腹度や満足度が高く、我慢することなく自然に過剰なカロリー摂取がなくなるという大きなメリットがあります。

と言っていて(前述のダイレクト試験とは論文1のこと)、体重減少に関して言えば、これで解決なんだと思います。

体重減少という観点だけに絞れば、カロリーが全てで、糖質制限のメリットは、特別細かい管理をしなくても摂取カロリーが抑えられるという点なのでしょう。

結局、糖質制限で体重減少幅が大きかったのは、摂取カロリーが小さかったのが主な理由で、岡本先生が示しているように、実際にそうなっているわけです。

江部先生は、糖質制限下のブドウ糖不足の状況でたんぱく質からブドウ糖を作り出す糖新生自体にエネルギー消費が必要だからとか、たんぱく質の方が糖質よりも消化吸収に必要なエネルギーが大きいからとか、同じ摂取カロリーでも糖質制限の方が、消費カロリーが増えるからダイエットに有利という話もしています。

この話は、理屈としては正しそうですが、具体的にどれだけの量的なインパクトを持つかは不明で、いずれにせよ、実験においては摂取カロリーが一番小さかったわけですし、減少幅にそこまで大きい差があったわけではないですから、特段重要視する必要はないと思います。

それよりも、糖質制限派の江部先生がカロリー収支を前提として話をしている点が重要です。

山田先生も参考書籍の中で下記のように言っています。

ロカボは「カロリー無制限」を旨としますが、これは「カロリー無限大」とは意味が違います。カロリー制限がいいという世界観の中で生きてきた人は、いくらなんでもカロリーを取り過ぎたらいけないでしょう?という言い方をしますが、それは当たり前です。満腹中枢で制限されているのだから、カロリーをことさら気にしなくてもいいというだけのことなのです。

つまり、糖質制限食(山田先生はロカボと呼んでいる)によると、カロリーを気にせずお腹いっぱい食べても、満腹中枢の影響で、摂取カロリーが一定以下に抑えられるはずというだけで、無制限にカロリーを摂取したら太るに決まっていると言っているわけです(無制限と無限大は違うなんていう説明は詭弁の類だと思いますが)。

つまり、江部先生、山田先生、共に体重変動はカロリー収支が全てであることは当然の前提にしています。糖質制限の最大のメリットは、難しい計算をしなくても摂取カロリーが抑えられるという実践性にあることを認めていると言えます。

一部の糖質制限原理主義者が主張しているような、太る原因は炭水化物で、カロリーは関係ないなんてことは、真っ当な糖質制限派の先生は一言も言っていないわけです(当たり前ですが)。

糖質制限のリバウンド


糖質制限を始めると摂取カロリーが下がるという事実が、2つの論文に共通して出てくる、糖質制限食で必ず起きているリバウンドも説明すると思います。

個人的には、糖質制限を始めた時に、糖質を補うだけ量のタンパク質や脂肪を食べるとは到底思えません。炭水化物好きの人間が糖質制限すると決めたら、たぶん食事そのものに興味がなくなってトータルの食事量が減ると思います。

食欲とは食べたいものを食べることであって、食べたいものを食べられない時に、食べたくないものを、食べたいものの分だけ食べるようになるとは思えません。

私は焼き肉に行ってもご飯がないと肉を食べられない人間ですが、炭水化物を制限した場合に自分が食べられなくなったご飯の量だけ肉を追加で食べるようになるとは到底思えません(これは想像ですが)。

満腹中枢なんて言う難しい話を持ち出さなくても、嫌いなものをたくさん食べてよいと言われても食欲は満たされないという事実が、食欲というものがどういうものかを明らかにしていると思います。食欲というのは、なんでもよいからお腹いっぱいにしたいという欲ではないと思います。

いずれにせよ、短期的な体重減少の幅が大きいのは、始めたばかりの時は摂取カロリーが大幅に下がるからで、途中から体重が増え始めたりするのは、糖質制限に慣れてきて食べる量が増えるからと考えて間違いないでしょう。

糖質制限をするとリバウンドしやすい体になるという話はあり得るのかもしれませんが、それは糖質制限を辞めて糖質を再び摂取し始めた場合であって、糖質制限中にリバウンドするのは、食事量が増えたか、こっそり糖質制限を辞めたかの2つしか考えられないと思います。

そうはいっても、最終的に摂取カロリーが小さかったために、糖質制限の方が体重減少幅が最終的に大きかったのでしょう。

その一方で、カロリー制限食の体重減少幅が小さいのは、単純に守れていないのでしょう。

結局、そんなところなのだと思います。

もっとも、カロリー制限の方が面倒くさいから守れない人が多いというのは理解できるし、間違いないと思います。ただ、それは実践性の話であって、何か体重の減少幅を説明する理論的背景があるわけではないと思います。

つまり、結局糖質制限食のメリットというのは、炭水化物を我慢すると、多少腹を満たすためにたんぱく質や脂質を多めにとることになるかもしれないが、従前の炭水化物を超えるようなものにはならないから、摂取カロリーが減って体重が減るというだけなのでしょう。

一気に体重が減少するのは、普段炭水化物を取り過ぎていることの裏返しでしかなく、結局、糖質が悪なのではなく、食べ過ぎが悪なのであって、食べ過ぎの場合、炭水化物の食べ過ぎのケース多いというところが結論ではないでしょうか。

以上から考えると、糖質制限というのは、カロリー制限を守れない場合には、結果的に摂取カロリーが下がる可能性が高いから有効であるというのが結論だと思います。

つまり、実践性が高いだけで、食事療法そのものとして、糖質制限食がカロリー制限食より体重減少に有効だとは結論付けられないと思います。

話がややこしくなる理由


体重減少だけに限定すればこんな単純な話なのですが、どうも変な勘違いをしている人も見受けられます。いったいなぜでしょうか。

少し私見を述べます。

この記事を読んでいる中でウェイトトレーニングをしている人は多いと思います。ただその中で、現状に行きつくまでに試行錯誤があった人も多いかと思います。

私もウェイトトレーニングについてちゃんと学ぶ前は、自宅で腕立て50回とかやっていました。また、栄養の知識が付いたのは筋トレをまじめにやり始めたからです。ある意味、プロテインというものが何なのかを調べていく内に徐々に身についたと言っても過言ではありません。

筋トレを始めた頃の自分は、プロテインをなんだか怪しいものだと思っていましたし、「プロテインなんてただのたんぱく質に過ぎない」なんて言われても、そもそもたんぱく質というものがしっくりこないから、何のことだかよくわからなかったわけです。今思うと恥ずかしいですが初めて買ったプロテインは、SAVAS競技別シリーズの赤い缶の小さいもので、恐る恐る飲んでいました。

結局、何にも知らないに等しく、プロテインを飲むと筋肉が付くとか、脂肪は太るといった意見を信じていただけでした。

自分は世間の代表ではないからかなり乱暴なのですが、筋トレをしていない一般読者の多くは、栄養学に興味を持っている人以外、3大栄養素などと聞いてもぴんと来ないんだと思います。それは、プロテインに関する誤解やダイエット中に筋トレすると筋肉が増えるといった誤解の蔓延に端的に表れています。

その結果、糖質制限食で高たんぱく高脂質食を取ると言ったときに、一般読者が最初に思いつく疑問は、脂肪を食べたら太るんじゃないの?というものですから、糖質制限に関する本の中でダイエットについて触れている個所は、必然的にその疑問への回答が厚くなります。

具体的には、糖質が体脂肪に変換される仕組みを延々と解説するとともに、摂取した脂質がエネルギーとして利用される仕組みを解説することとなります。しかも、非常に丁寧にかつ厚く説明するわけです。

しかし、ちょっとざっくりした言い方になりますが、消費カロリーを超えた部分の糖質が体脂肪になり、消費カロリーの範囲内の脂質がエネルギーにされるという当たり前の点が前に出ていないのです。

摂取カロリーの行き先ばかり説明がなされて、消費カロリーの話があまり出てこないから、体重や体組成が摂取カロリーのみで決まるかのようにとれてしまうかもしれません。

何も私たちの体の中にある体脂肪が全て糖質由来で、食べた脂肪が全てエネルギーとして消費されているわけではありません。しかし、何も知らない人が読むとそう誤解してもおかしくないような書きぶりになっていたりします。

消費カロリーの枠内であれば糖質はエネルギーとして利用されるし、消費カロリーを超過する分は脂質も体脂肪になるだけで、体重のみを考えれば結局はカロリー収支が全てのはずです。

江部先生も、カロリー収支が体重変動を決めるという当たり前の事実は当然に書いています。しかし、このクラスの先生方にすればそんなことは当たり前ですから、そこを熱く語ったりはしません。その一方で本を通じて何を主張しているかというと、カロリー制限食批判なのです。

その結果、本を要約しなさいと言ったとき、1.糖質が脂肪になる、2.脂肪はエネルギーになる、3.カロリー制限は悪いものである、としてしまう読者が大量発生しているんではないかと思います。

山田先生にしろ、江部先生にしろ、著書を丁寧に読めば、カロリー収支で体重が決まることは当然としています。

しかし、本自体がダイエット目的のマニュアル本ではなく、糖尿病治療をめぐる糖質制限食VSカロリー制限食の構図の論争から派生して一般向けに糖質制限食を啓蒙する内容となっていますから、どうしてもカロリー制限食を批判する部分が多く、その中でちょろっと、糖質制限はダイエットにも有効なんて話が登場しているだけなわけです。

そこで、特に糖尿病でもなく、ダイエットのためという興味のみから、糖質制限の家元は江部先生だなどと聞いてその著書に当たると、その一部で語られているダイエットの議論だけをうまく抽出できなくて、メインストリームの糖尿病治療や予防としてのカロリー制限食批判とダイエットの話がこんがらがってしまって、体重変動にカロリーは関係ないとか、カロリー制限は意味ないどころか有害だとか、余計な事実誤認までついてきてしまうのだと思います。

終わりに


能書きが多くなりましたが、私の結論はシンプルです。

体重変動はカロリー収支で決まります。そして、糖質制限食を実践した場合に、カロリーを特に意識せずにお腹いっぱい食べても、摂取カロリーが結果として下がる場合が多いというのは間違いない事実のようです。したがって、体重減少のみを目的とした場合に、糖質制限食は立派なオプションの一つだと思います。有効性は否定できないでしょう。

もっとも、3大栄養素全てをコントロールするのか、それとも糖質だけをコントロールするのか、どちらが実践性が高いのか(手軽なのか)という話であって、きっちりコントロールできれば糖質を制限しなくても体重は落とせますし、糖質制限しても食べまくれば体重は落ちないでしょう。

なお、体重を落としながらも締まったスリムな体を作るという目的で考えた場合に、糖質制限が有効か否かについて、少なくとも上記糖質制限について議論をしている第一級の先生方は何もコメントしていません。そんなこと気にもしていません。

プライベート空間でダイエット&ボディメイク
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