はじめに
今回は、ダイエットに最適な有酸素運動の強度について考えてみます。
筋トレとの比較や両立はさておき、脂肪燃焼目的に有酸素運動は有効です。しかし、有酸素運動と一言で言っても、いろいろな運動がありますし、ジョギングやウォーキングにしても、どれくらいの強度(スピード)で行うのが脂肪燃焼には効果的なのかと疑問を持つ人は多いかと思います。
ダイエット目的の筋トレであれば、一般論として8RMから12RM位の重量が効果的とされていますが、有酸素運動にも効果的な強度というものがあるのでしょうか。
ダイエッターはどの程度の強度で有酸素運動をすればよいのか。そこを考えてみたいと思います。
脂肪燃焼ゾーン
ダイエット目的で有酸素運動をする場合に、どのくらいの強度でやればよいかという疑問は誰もが持つかと思います。
有酸素運動の場合、強度の指標は心拍数です。エクササイズがハードであればあるほど心臓の働きが強まるからです。もっとも、ある心拍数が高いか低いかは人によって(正確には年齢によって)異なるので、最大心拍数(220マイナス年齢)の何%という指標で議論されるのが通常です。
そして、脂肪燃焼のためには、最大心拍数の60%くらいの低い強度で行った方が体脂肪の燃焼割合が高いという意見があります。いわゆる脂肪燃焼ゾーンの考え方です。
この意見は決して間違いではなく、有酸素運動を最大心拍数の80%で行うよりも60%で行う方が、脂肪燃焼割合は高まります。
しかし、だからと言って、ダイエット目的で有酸素運動を行う場合に、最大心拍数の80%で行うより60%で行う方がダイエットに効果的かと言えばそうではありません。脂肪燃焼割合と脂肪燃焼量は異なる概念であり、ダイエットの目的は少しでも多くの脂肪を燃やすこと、すなわち、脂肪燃焼量を増やすことだからです。
具体例を用いて説明します。数字は単純化しています。
最大心拍数の60%で30分ジョギングをして200kcal消費したとします。この場合、脂肪燃焼割合は80%なので、160kcal脂肪は燃えることになります。
他方、最大心拍数の80%で30分ジョギングをして300kcal消費したとします。この場合、脂肪燃焼割合は70%なので210kcal分脂肪は燃えることになります。
以上のように、強度が低い方が脂肪燃焼割合が高いのですが、強度が高い方が燃焼できる脂肪の量は大きくなります。すなわち、少しでも多くの脂肪を燃やしたいのであれば、強度が高い方が有効ということです。
時々、“強度が低い方が脂肪燃焼割合が高い”という事実を、“強度が低い方が脂肪がたくさん燃える”と勘違いして、1時間以上低い強度で有酸素運動をしている人がいますが、初心者が1時間程度継続できるような運動は強度が低すぎて、トータルの脂肪燃焼量は少なくなっている可能性があります。
もちろんキツすぎて5分もたないのであれば逆効果ですし、また、運動を始めたばかりの方がいきなり高強度の運動をするべきではありませんが、30分程度を目安に、自分にできる限りの強度で運動するのが効果的です。
この結論はある意味当然で、楽な方が効果が高いなんていうことは起こらないということです。
脂肪燃焼割合
上記のような、脂肪燃焼割合は低くてもトータルの脂肪燃焼量が多いから、最終的には高強度の方が効果的という事実は結構知られているのですが、そもそも論として、脂肪燃焼割合という考え方をダイエットに持ち出すこと自体がおかしいことは意外と知られていません。
脂肪燃焼割合が高いということは、同じカロリー消費量において脂肪がよりたくさん燃えるということですから、ダイエットにおいては重要な考え方のような気がします。にもかかわらず、この考え方がダイエットにおいて機能しないとはどういうことでしょうか。
以下具体的に検討してみます。
消費カロリー1500kcalかつ摂取カロリー1500kcalで、一切体重変動がない教科書にしか出てこないタイプの人を考えてみます。
ここで、この人がダイエットを開始したとします。
食事を一切変えずに毎日30分ジョギングをするという良くあるタイプのダイエットです。その消費カロリーは200kcalとします。
もともと、消費カロリーと摂取カロリーがバランスしていましたから、この増えた消費カロリー200kcal分だけ体重は減ります。
では、この200kcalについて脂肪燃焼割合が変わると何が起きるのでしょうか。
結論は、脂肪燃焼割合は一切関係ないというものです。脂肪燃焼割合がどうであれ、最終的に増えた200kcal分だけ脂肪が燃えます。運動時の脂肪燃焼割合が0%であれ100%であれ、追加的な200kcalだけ脂肪が燃えます。
何故かと言うと、脂肪燃焼割合が高まれば高まるほど、運動時の脂肪燃焼量は増えますが、その分グリコーゲンが温存され、食事から摂取した炭水化物からグリコーゲンの補充に回る分が減り、結局その分だけ余剰エネルギーとしての体脂肪が増加するからです。
もし、脂肪燃焼割合100%の超効率的なエクササイズを行ったとしても、脂肪燃焼割合0%のエクサイサイズを行った場合と比較して、トータル摂取カロリーやトータル消費カロリーが同じである限り、体脂肪の量は一切変わりません。
脂肪燃焼割合が100%ということは、グリコーゲンが消費されないということですから、その後の食事で食べた炭水化物は全て体脂肪になり、余分に燃えた脂肪を補う形で脂肪が蓄積されます。
つまり、有酸素運動の強度を下げて脂肪燃焼割合を増やすというのは、強度を上げた方が脂肪燃焼量が多いから意味がないという側面もありますが、そこを考慮しなくても、全体的に考えると、そもそも、脂肪燃焼割合を増やすというコンセプト自体が機能しないのです。
これはすでに考えたように、有酸素運動だけでなく、一部の脂肪燃焼サプリにも言えます。
飲むだけで、脂肪代謝を活性化し、脂肪燃焼割合を高め、家で静かに過ごしている時でさえ、脂肪を燃やす。仮にそれが本当だとしても、その分だけグリコーゲンが温存されているのであれば、食事から摂取したカロリーのうち、グリコーゲンの補充に回る分が少なくなるわけですから、その分だけ体脂肪に回る分が増えることになります。
つまり、脂肪燃焼割合を変えたところで、燃える脂肪は消費カロリーと摂取カロリーの差分でしかなく、結局はカロリーバランスが全てということです。
終わりに
今回は少しい理屈っぽいのですが、結論はシンプルです。
体脂肪の燃焼割合がどうであれ、結局燃える脂肪は、消費カロリーと摂取カロリーの差でしかありません。脂肪燃焼割合の高いエクササイズをしようが低いエクササイズをしようが、消費カロリーと摂取カロリーの差の分だけ脂肪は燃えます。
つまり、脂肪燃焼割合など気にすることなく、消費カロリーを増やすことに専念すればよく、有酸素運動の強度に関する議論や、一部の脂肪燃焼サプリの謳う、脂肪燃焼割合を高めることがダイエットに効果的というコンセプト自体が破綻しているのです。
もちろん、上記例では、筋肉の増減を一切度外視しており、実際には筋肉の減少もあるので別途手当てする必要がありますが、そこは全く違う議論であり、結論が変わるようなものではありません。
参考
アレックス・ハッチンソン著 児島修訳 『良いトレーニング、無駄なトレーニング』
クリス・アセート ボディメイクはおまかせダイエットは科学だ!