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はじめに
今回は、筋トレやダイエットをしている人は、お酒は飲んでいけないのかという点について考えてみたいと思います。
このトピックは、生化学に疎い私としてはなかなか難しいところなのですが、読者の方からリクエストがあったので、頑張って書いてみたいと思います。
もっとも、一筋縄ではいかない論点であるため、かなり長くなってしまいました。
また、これまでの記事の通り、最新の研究結果がどうのこうのといった客観性は無視して、不十分な知識ながらも自分の頭で考えることだけを重視しています。
最初に注意点
これから、筋トレ及びダイエットへのアルコールの影響を書いていきますが、最終的にこれは個人に依存します。
お酒に強い人と弱い人では、その影響は違うはずです。
そして、ご存知のように、お酒の強さというのは人それぞれです。強い人、弱い人といったところで、その幅はものすごく広いです。
また、単純にアルコール度数だけで話ができない面もあり、私なんかはビールや日本酒は結構飲めますが、ワインを飲むとすぐに気持ち悪くなってしまったりします。したがって、アルコールの影響という一般論には原理的に無理があります。
しかし、そんな個人差は度外視して、一般論で最後まで行きます。
また、適度な飲酒なら問題ないという話が出てきますが、適量とはビールなら何杯か、日本酒やカクテルならどうか、ビール2,3杯だとしたら、350ml、500mlかそれとも瓶かなんて疑問は持たないようにしてください。
そんな疑問への回答はありません。また、適量であれば大丈夫だからと言って、4杯目を一口飲んだ瞬間筋肉への影響が始まるという、0と百を隔てるベルリンの壁的な特異点があるわけでもありません。
ある程度の範囲内であれば、特に気にする必要はないだろう程度の結論です。
そもそも、個人差が大きい論点ですから、ビール300mlなら大丈夫とか、体重1kgあたりエタノール0.5gまでなら大丈夫といったような、具体的な数字が出てくることはあり得ません。
完璧を期したいのであれば飲むべきではありません。当然です。
では、説明に入ります。
お酒とは
お酒とは、水とアルコール(エタノール)の混合溶液に、何らかの物質が溶けておいしくなったものです。
ではいったい何が溶けているかというと、赤ワインならポリフェノールが入っていたり、果実系のサワーならビタミンCが入っていたりするでしょう。
しかし、そんな微量物資に目を向けて、ポリフェノールの抗酸化作用が・・・などと始めてしまうと、とてもお酒の影響という一般論は語れませんから、そういった微量物質は無視します。
では、水とアルコールに何が溶けているのかというと、結局は三大栄養素のみ考えることにします。
しかし、三大栄養素のうち、脂肪やたんぱく質が大量に溶けているお酒というのは考えにくいですから(アミノ酸は多少入っていると思いますが)、要するにお酒とは、水とアルコールと炭水化物の混合物であると考えてよいと思います。
お酒に含まれる炭水化物
お酒に含まれる炭水化物の効果は、お酒の効果ではなく炭水化物そのものの効果です。
炭水化物をアルコールと一緒に取ったからと言って、特別なことが起こるわけではありません。
酒に含まれていようがいまいが炭水化物は1gあたり4kcalです。それ以上でも以下でもありません。摂取したカロリーだけ体重は増えますし、摂取したカロリー以上に体重が増えることはありません。また、炭水化物が筋肉の材料になることはありませんから、基本的に体脂肪の原材料です。
そういう意味では、飲めば飲むだけ炭水化物の摂取量は増えますが、設定した一日のトータルカロリーの枠内であれば特段問題はありません。
しかし、炭水化物の摂取がボディメイクの肝であるという観点に基づくと、いくらトータルの炭水化物摂取量を維持したとしても、炭水化物源としてビールが適しているわけではなく、さらに、夜にお酒を飲むことが通常ですが、夜に炭水化物摂取を寄せることは決して良いものではありません。
つまり、炭水化物摂取は筋トレ前後や活動量の多い朝昼に寄せて、かつ、血糖値の急上昇を避けるべく吸収の遅い複合炭水化物中心にすべきという基本原則を守るのであれば、夜にお酒からの吸収の速い炭水化物を摂取することは望ましいものではありません。
トータルの枠内で、しかるべきとタイミングでしかるべき種類と量の炭水化物を摂取すべきと考えるのであれば、夜の飲み会で飲むべきお酒は炭水化物の含まれない蒸留酒が良いということになります。
もっとも、筋トレを夜にぶつけて、かつ、筋トレ直後だけは吸収の速い炭水化物の摂取が望ましいと考えると、筋トレ直後の炭水化物源として、ビールや果実酒は決して悪いと考える理由はありません(一緒に摂取するアルコールの影響を無視する限り)。
いずれにせよ、お酒に含まれる炭水化物の影響は「吸収の速い炭水化物の摂取」という論点の範囲であり、「お酒の筋トレやダイエットへの影響」ではありませんから、以下、お酒の影響としては、水とアルコールのみからなる蒸留酒を基準に考えてみます。
もちろん、ウイスキーは消毒液とは違いますから(個人的にはジェムソンあたりは大して違わない気がしますが)、蒸留酒だからと言って水とアルコールのみからなるわけではありませんが、無視して良い量だと思います。
間接的な効果
話を分かりやすくするために、アルコールの筋トレやダイエットへの影響を考えるにあたって、最初にアルコール摂取の間接的な効果を整理します。
まず、お酒を飲むと、胃が活性化して食欲が増したり、また、必然的につまみを食べることになり、結局摂取カロリーが増えると指摘されることがあります。
それはその通りで、現実的には大問題ですが、食事量が増えればその分体重が増えるのは当たり前で、特段議論すべき様な話ではなく、混乱させるだけなので無視します。
もちろん、アルコールと一緒に摂取したからと言っても、100kcalのつまみは100kcal分しか体重増加には貢献しません。アルコールと一緒につまみを食べると脂肪がつきやすいと言った話を誤解している人がいますが、100kcalの食事は100kcalでしかありません。
また、ビールや果実酒に含まれる炭水化物の影響も上述の通り無視します。
結局のところ、アルコール摂取の影響に話を絞ります
アルコールのカロリー
まず、アルコール自身の直接的な影響を考えてみます。実際にやったら死んでしまいますが、100%エタノール100g飲んだら体重変動には何が起きるのかという話です。
炭水化物とたんぱく質は1gあたり4kcalで、脂肪は1gあたり9kcalです。では、アルコールはというと1gあたり7kcalです。
体重変動はカロリー収支が全てですから、700kcalだけ体重が増加するのでしょうか。
そして、実はそうはいかないよという話なのですが、何故かというと、アルコールは最終的に水と二酸化炭素になり、体内に蓄積されないからです。そして、このカロリーは全て熱になります。
つまり、体の組織にならない以上、体重が増えるはずはないのです(水分量の増減は度外視)。
では、実質的に水とアルコールしか含まれない蒸留酒を飲めば、その摂取カロリーは全て熱になるだけで、太ることはないのでしょうか。
ここら辺が良く分からなくなるので、以下、かなり遠回りしますが、原理原則から考えてみます。
エネルギー保存の法則とATP
唐突ですが、エネルギー保存の法則というのは、エネルギーが消えた無くなったり、ゼロからエネルギーが生まれたりはしないという法則です。
これを人間の体で考えると、私たちが手や足を動かしたりするにはエネルギーが必要ですが、もっと正確に言うと、運動エネルギーが発生している反面、どこかでエネルギーが減っているということです。
別の言い方とすると、子どものころ夢に見た永久機関(永久に動き続ける機械)は存在しえないということになります(毎年何件も特許出願されているらしいですが)。
以下、分かりやすさを最優先の説明にします。
一体、私たちの体の中で何が起きているかというと、ここでATP(アデノシン3リン酸)とADP(アデノシン2リン酸)という物質が登場します。
ブドウ糖(炭水化物)がエネルギー源、脂肪を燃焼してエネルギーにすると言ったところで、人間の体の本当のエネルギー源はATPという物質です。
数字はでたらめですが、ATPという物質が100kcalで、ADPという物質が64kcalだとします(これは完全に架空の数字です)。
100kcalのATPが64kcalのADPになるということは36kcalのエネルギーが生じることになります。そして、これが私たちの筋肉を動かし、36kcalの運動エネルギーになります。
私たちの体の仕組みでは、ATPがADPになるときに出るエネルギーだけが体を動かします。逆に言うと36kcalの運動をすると、ATPが1個ADPになってしまいます。
しかし、私たちの体は動き続けます。ATPはADPから作られますから、つまりADPをもう一度ATPに変換する必要が出てきます。
64kcalのADPを100kcalのATPに変換するには、今度は36kcalのエネルギーを足す必要が出てきます。 そして、ここで出てくるのがブドウ糖や脂肪(あとクレアチン)です。
脂肪1gが9kcalというのは、上の例で言うと、脂肪4gが分解されれば36kcalが生じるということですから、脂肪4g分解されることによりADPをATPに変換し、さらにそのATPをつかって36kcal分だけ筋肉を動かすことが出来ます。
同じように、ブドウ糖は1gあたり4kcalですから、ブドウ糖が9g分解されればADPをATPに戻すことが出来ます。そのATPを利用して、体(筋肉)は36kcalだけ運動することが出来ます。
このように、ATPが体を動かすのですが、体が動いた結果ATPはADPになってしまうので、脂肪やブドウ糖を利用して、ADPを再度ATPに変換して、また体を動かす、というのを繰り返しているのが私たちの体の仕組みなっています。
つまり、私たちの食べたものは最終的にはADPをATPに変換することに使われ、そのATPを利用して体は動いています。
しつこいですが、ATPが100kcalでADP36kcalというのは計算しやすいように私が勝手に作った数字ですから注意してください。
アルコールの代謝
アルコールというのは体にとって有害物質ですから、最優先で二酸化炭素と水に分解されるのですが、1gあたり7kcalのアルコールが0kcalの二酸化炭素と水になる過程で出る7kcalのエネルギーの行き先は熱しかありません。
何を言いたいかというと、その7kcalが利用されてADPがATPになるプロセスというのは存在しません。つまり、アルコールの持つカロリーを利用してATPを生産する仕組みはありませんから、結局のところ、アルコールを利用して体を動かすことはできません。
上で用いた架空の例ですが、ATPが100kcalでADPが64kcalとすると、36kcalのエネルギーがあれば、ADPをATPに変換することができますから、カロリー収支だけ考えると、約5g(7kcal/g×5g)のアルコールが分解されれば、ADPをATPに変換することができ、つまり、アルコールを燃料として体を動かすことが出来てもおかしくはありません。
しかし、アルコールを分解してATPを生産する仕組みは体内には存在しませんから、実際にそのカロリー移動は実現しません。
また、アルコールを脂肪に変換する仕組みもありません。
もし、アルコールが脂肪に変換される仕組みが体内に存在すれば、9gのアルコールは63kcalですから、7gの脂肪になるはずです。そして、その脂肪が分解されれば、上の例だと、約2つ分(正確には63÷36=1.75個)のATPが合成され、そのATPを利用して体は63kcalの運動をすることが出来ます。つまり、脂肪を介在させることで、まわりまわって、アルコールを体を動かす燃料にすることが出来ます。
しかし、実際にそのプロセスはないので、アルコールがいくらカロリーを持っているとしても、そのカロリー分のエネルギーは運動(消費カロリー)を補うことはできません。
つまり、人間の体の中には、アルコールを利用して体を動かす仕組みは存在しません。
具体例で考える
話がややこしくなったので、具体例で考えてみます。
典型的な教室事例ですが、摂取カロリーと消費カロリーが共に1000kcalで一致している人がいるとします。この人に体重変動はありません。
その人が、ウイスキーを100kcal飲んだとします。そうすると摂取カロリーは1100kcalになりそうです。
体重変動はカロリー収支で決まるのが原則ですから、100kcalだけカロリー超過になります。では100kcal分だけ体重は増えるのでしょうか。
しかし、アルコールは二酸化炭素と水にしかならず、体の組織にはなりませんから、増える体重の原材料がないのです(水分量は度外視しています)。
まず、アルコールはATP生産には一切利用できませんから、アルコールからどれだけのカロリーを摂取しても、基礎代謝や活動代謝の消費カロリー1000kcalはアルコール以外の炭水化物や脂肪の1000kcalが利用されるしかありません。そして、それらは体を動かすのに必要なATP生産に完全に利用されて体から消えます。
では、100kcalのアルコールはどうなるかというと、アルコールは有害物質として、必ず水と二酸化炭素に分解されますから、体内には残りません。
つまり、体重は変わりません。体を構成する組織に変化がありませんから、体重が変わるはずもありません。
摂取カロリーが1100kcalで消費カロリー1000kcalなのに体重は変わらない?
そうではありません。体重は変わらないということは、絶対に摂取カロリーと消費カロリーが一致しています。
種明かしをすると、結局熱として100kcalが追加で発生して、消費カロリーが1100kcalになっているのです。
もっとも、一日の運動量が増えたのではなく、100kcal分だけ平均体温が上昇したというだけです。
お酒を飲むと体があったかくなるのは誰でも知っているはずです。
本当にそうなのか
以上の議論は正しいように思えます。これが、「蒸留酒であればいくら飲んでも体重変動は生じない」と主張する人たちの論拠です。
アルコールを何kcal摂取しようと、それが分解される過程で同じカロリー分だけ熱が発生するのだから、つまり、摂取カロリーの上昇だけ消費カロリーが増え、結局体重の増減はないはずであるという主張です。また、アルコールが体の組織に変換される仕組みはないのだから体重が増えるはずもないと直感的な説明をすることもできます。
しかし、ここには疑義が生じます。
まず、ものすごく単純に考えてみます(ここから先は私がひねりだした例ですので、間違いがあれば指摘していただけると幸いです)。
基礎代謝という言葉は誰でも聞いたことがあると思いますが、それは生命維持に必要な活動のことで、その中には体温維持が含まれます。つまり、人間の消費カロリーの内訳には体温維持活動が含まれています。
つまり、食べたものの一部は体温維持活動に使われているということです。
では、アルコールの分解で熱が発生して体温が上昇している状況で、その体温維持活動に利用されるブドウ糖や脂肪の燃焼量は影響を受けないのでしょうか。
これはゼロとは言えないでしょう。
冬の寒い時には体温を維持するために体力を消耗しているはずで、お酒を飲んで体温が上昇したときに、体温維持に消費されるグリコーゲンや脂肪の量が特に変わらないと考えるのは不自然です。
つまり、アルコールの代謝はATP生産を通じた消費エネルギーには関与しないのですが、その熱発生は、基礎代謝の一部を補いそうです。基礎代謝には体温維持活動という熱発生も含まれるからです。
つまり、追加摂取したウイスキー100kcal分だけ熱が発生するのだけど、そのうち20kcalは既にあった体温維持活動に転用されると考えると、摂取カロリーは1100kcalだったのに、追加の熱発生は80kcalにしかならず、消費カロリーは1080kcalにしかなりませんから、20kcal分だけ体重は増えることになります。
つまり、アルコール自体は体重増加に貢献しませんが、最優先のアルコール代謝による熱発生によって、脂肪やブドウ糖の代謝の一部が不要となるので、その分体重が増加することになります。
しかし、この点に関しては、科学的に立証不可能なんじゃないでしょうか。
まず、雪山で遭難して食料は十分だが凍死寸前の人がウイスキーを飲んだとして、その分体温は上昇すると思いますが、その状況で体重が増えるとは到底思えません。
また、夏場であればアルコール分解による発熱が基礎代謝を補うというよりは、むしろ体温を下げる方が急務であり、体温維持に必要なエネルギー量はかえって増えそうな気がします。
さらに、アルコールの影響で血管が拡張したり、肝臓が活性化したり、少量の酒であれば代謝自体が向上しますが、飲み過ぎると肝臓に負担がかかり、代謝はかえって低下します。つまり、アルコール摂取量により体の代謝は様々な影響を受けます。
また、お酒の強さが人それぞれでどこまでが適量でどこから先が飲む過ぎかが人によって異なることを考慮すれば、変動要因が多すぎて、実験で明らかにできるような話ではないような気がします。
大学生かなんかを集めて、空腹状態でウイスキーだけ飲ませ続けて体重変動を観察する実験は理論上可能でしょうが、そのデータをいくら分析しても、個人差の影響が大きすぎて、科学的と言えるだけの結論は出せないような気がします。
つまり、『「蒸留酒から摂取するカロリーは全て発熱して失われるから、体重増加には一切影響しない」とは言い切れない』と結論付けるのが精いっぱいでしょう。
しかし、個人的には、体重変動に影響しないとみなしてよいと思います。
実際には、一緒に食べるつまみのコントロールこそが問題で、お酒を飲むときは、つまみなしでお酒飲み延々と飲み続けるという人以外、「蒸留酒であれば太らないと思ったら大間違い」というアドバイスの価値は疑問です。
この点、アルコールのカロリーの何割かは消費カロリーに当てられるというような見解もネットで散見されますが、何を根拠にした主張なのか不明なのでとても信用できるものではありません。ATP合成に利用する仕組みがなく、熱発生しかない以上、基礎代謝や活動代謝のいったい何に利用できるのか良く分かりません。
どれだけ熱を発生させても、蒸気機関という熱エネルギーを運動エネルギーに変える仕組みがない限り汽車は動きません。
以上、なんだかわからない結論になりましたが、私としては、蒸留酒であれば、酒自体は体重増加に影響はないという結論でよいと思います。そうとは限らないと言いだした先に何もないですし、増えたとしても問題になるような量ではないと思うからです。
もっとも、以上は全てアルコールそのものの直接的な影響の話です。
実際には、アルコールを摂取すると、アルコールの分解で肝臓が忙しくなり、それが、他のプロセスに影響を与える可能性がありますから、以下それらの影響を考えてみます。
アルコールと筋肉分解
時々、アルコールの摂取は筋肉を分解するという見解を見たりしますが、これは正しくないと思います。
例えば、アルコールを二酸化炭素と水に分解する過程で、ロイシン(筋肉を構成する主要なアミノ酸でBCAAと言われる3つのアミノ酸の一つ)が必要になるというような仕組みがあれば話は別です。
アルコールという有害物質の分解は体にとって優先事項ですから、ロイシンを作り出すために筋肉の分解が促進するなんてことが起こるかもしれません。
しかし、残念ながら、アルコール分解の過程にアミノ酸は登場しません。つまり、筋肉が分解される必要が一切ありません。
そう考えると、アルコールの摂取が筋肉を分解するというのは、なさそうです。
アルコールと筋肉合成
この話はある意味メイン論点だと思いますが、結論的には、アルコール摂取は筋肉合成を阻害するから、筋トレしている人はお酒を控えた方が良いという言い方をしている人は少ないです。
私がこのブログでよく引用する以下の書物において、アルコールの摂取が筋肉合成(ないしは筋肉分解)に影響すると書いているものは一つもありません。いずれも、脂肪燃焼の観点から、お酒を飲むとつまみが食べたくなったり、胃を活性化して食欲が増したり、酒には炭水化物が含まれているものが多かったりするから、ほどほどにしようと述べているのみです。
では、アルコールと筋肥大の関係について述べた信頼できる本がないのかというと、1冊ありまして、これまた、私が良く引用するアレックス・ハッチンソン著、児島修訳の「良いトレーニング、無駄なトレーニング」草思社です。
この本に引用されている話は非常に面白いので、以下私なりに工夫して紹介します。この本は本当に面白いので、詳細は原本をお読みください。
まず、筋トレ後にオレンジジュースを飲むグループとスクリュードライバー(ウォッカ+オレンジジュース)を飲むグループで筋トレ後の筋肉の回復状況を比較して、「適量」のお酒の筋トレへの影響を調べた実験があるそうです。
その結果、アルコールを摂取したグループの方が、筋トレ後3日間の筋力の損失が大きかったという実験が紹介されています。
ここで、筋力の損失が大きかったという言い方がされていますが、アルコールが筋肉を分解したと捉えるより(筋力の損失自体は筋トレから生じていると考える方が自然)、筋トレ後の回復が遅れたと捉えるのが素直だと思います。
つまり、適量の飲酒であっても、筋トレ後の回復に影響があると結論付けられそうです。
しかし、この実験を行ったのがニュージーランドの学者であり、「適度」の内容に疑義が投げられます。
適度と称して、一人当たりビール6.5本分のアルコールがこの実験では摂取されていました。
ニュージーランドでスポーツマンと言えばラガーマンで、ラグビーの世界では、アフターマッチファンクションと言って、試合後に相手チームやレフリー等のみんなで飲み会をやるのが恒例で、事実上第二試合と言われる壮絶な飲み会があるらしいのですが、試合後に平均で一人当たりビール22本くらい飲むというデータもあるそうです。
そう考えると、この研究者としては(この人はアルコールと筋肥大の関係という理論的研究というより、現実問題としてのアスリートへの飲酒の影響を調べたかったのだと推測)、ビール6.5本は適量のつもりだったのでしょうが、結局量を半分にして研究をやり直すことになります。
そうすると、筋肉の回復に影響がないといううれしい結果が得られたそうです。
そして、これは適度な飲酒であれば特段スポーツパフォーマンスや筋トレに影響がないという経験則と一致しています。体育会系の出身者で、飲み過ぎない限りは特段影響がないことを実感している人は多いと思いますが、それでよいのだと思います。
なお、適量以上の飲酒が筋肥大(筋肉の回復・再合成)を阻害する原因としては、アルコールが筋肉に働きかけているというよりは、筋肉の回復成長につながるホルモン分泌に良くない影響を及ぼしている可能性が高いそうです。
以上、アルコールの摂取は適量であれば、特に問題のある影響はなさそうです。もっとも、飲まないに越したことないのは当然でしょう。
アルコールの利尿作用
アルコールには利尿作用があるのはご存知だと思います。そして、その利尿作用を考慮すると、アルコール飲料の摂取は水分摂取というよりはむしろ、水分量の減少を導くものであることは良く知られています。
水分というのは、ざっくり言えば、筋肉をはじめとした体の各所に必要な栄養素を運び、老廃物を運び出す、まさに筋肉合成を含む代謝の要となる運搬役です。
食事回数と同じで、増やせば増やすだけ代謝が活性化するなんて言うものではないでしょうが、不十分だと代謝が落ちるというのは自然な理解ですから、多くのボディビルダーは水分のこまめな補給を心がけています。
そして、私たちの平均的な水分の摂取量は、必要量と比べると少なくと言われることが多く、諸説ありますが、筋トレしている人は1日4Lくらい飲みましょうなんて言われたりします。
そう考えると、アルコールの摂取は、体内の水分量の減少を招き、筋肉合成といった代謝活動に影響を与えることにより、筋肉の回復や成長を阻害する可能性はあります。
しかし、これは、水を飲むことで回避可能です。つまり、お酒を飲むのであれば、飲酒中や飲酒後の水分補給を心がけましょうと言うことです。
アルコールと脂肪蓄積
お酒を飲むと脂肪がたまりやすいという話はよく聞きますが、どうも混乱している気がしているので、理屈っぽく考えてみます。
まず、このブログでよくやる考え方ですが、脂肪の増減というのは、脂肪蓄積と脂肪燃焼の差で決まります。
あくまで、食べたものが脂肪になる脂肪蓄積プロセスと、体脂肪をエネルギーとして利用する脂肪燃焼プロセスは全く別のものです。
まず、アルコール摂取と脂肪蓄積に関係はないでしょう。
確かにつまみを食べれば、それは脂肪の蓄積につながりますが、アルコールを同時に摂取しようがしまいが、炭水化物とたんぱく質は1gあたり4kcalで、脂肪は1gあたり9kcalです。それ以上でもそれ以下でもありませんから、食べた分が脂肪か筋肉になるだけで、追加で脂肪になる分が無から発生するわけではありません。
もっとも、上述のように、飲み過ぎると筋肉の回復が遅れるということは、摂取したたんぱく質のうち筋肉になる量が減るということですから、その分脂肪に回る量が増えるということにはなるかもしれません。
いずれにせよ、食べた分だけ増えるのであって、適量のお酒であれば、脂肪の蓄積量に影響はありません。
アルコールと脂肪燃焼
では、アルコール摂取による脂肪燃焼への影響はあるのでしょうか。
実はあります。
アルコールは、グリコーゲンや脂肪と違って体内に蓄積できません。それどころか有毒ですらあるので、体内に入ったアルコールはできる限り速やかに処理されなければなりません。
そして、その優先順位はかなり高いので、肝臓がこれにかかりっきりになると、その間は脂肪のエネルギー利用(脂肪燃焼)は抑制されることになります。
つまり、カロリー制限をして、カロリー不足分だけ脂肪を燃やそうとしている人にとっては、飲酒中や飲酒後の、アルコールの分解が続いている状態は、脂肪燃焼が抑制されて(その分代謝が落ちている)、十分に脂肪が燃えていない状況であると言えます。
つまり、摂取カロリーを一定とすると、アルコールの摂取は消費カロリーの低下を招きますから、その分だけ予定していたカロリー不足よりは減少することになり、脂肪減少は停滞します。この影響があるからこそ、蒸留酒の体重変動への影響だけを取り出して分析することはできなと思います。
以上を考慮すると、飲酒しながらつまみを食べると、食べたものが脂肪になりやすくなるとか、飲酒しない場合と比べて、脂肪の蓄積が増えるということはありませんが、同時に行われているはずの脂肪燃焼が停滞しますから、結果として、脂肪増加につながることになります。つまり、つまみは太りやすいというのは、トータルベースで考えれば間違っていません。
まとめ
お酒と共につまみを食べたり、食前酒によって勢いをつけて食事量が増えたのであれば、その分だけ体重が増加するのは当然。
お酒には炭水化物が含まれるのも多く、その炭水化物摂取は体重の増減や体脂肪の増加に影響を与えることになる。もちろん、あらかじめ設定した一日の摂取炭水化物量の範囲内であれば、問題はないともいえるが、お酒は炭水化物源としては到底勧められるものではなく、また、通常お酒を飲むタイミングである夜に炭水化物の摂取を寄せるのは勧められるものではない。
炭水化物を摂取しないように、炭水化物を含まない蒸留酒を飲むというのは合理的な選択。蒸留酒だからといって、いくら飲んでも熱になるだけで体重変動に一切影響がないとは言いきれないが、現実的にはそう考えて特段問題ないと思われる。
適量の飲酒であれば、筋肥大への影響はないが、飲み過ぎは筋トレ後の筋肉の回復成長を阻害するので避けた方が良いと思われる。
アルコールの摂取により、肝臓がアルコールの分解に忙しくなると、その分脂肪の代謝が抑制されるので、トータルベースで見れば飲酒は脂肪増加を加速すると考えられる。つまり、飲酒中は脂肪燃焼が抑制されているので、脂肪摂取も抑制するのが合理的。
終わりに
今回は、筋トレ及びダイエットとアルコール摂取の関係を考えてみました。
ネットで情報を集めようとすると、いろんな情報が出てきて訳が分からなくなりますし、自分で考えようとすると頭がこんがらがって、一筋縄に行かない論点でもあります。
特に、蒸留酒は実質的にゼロカロリーなのかという論点は科学的な答えが出せる論点ではない気がします。言えても、“ゼロとまでは言いきれないだろう”程度のような気がします。
そんな中、一直線に理解できるように私なりに考えて解説してみたので、かなりきわどい説明も加えています。
もっとも、結論的にはよく言われているものと同じですし、変わらないと思います。
飲まないには越したことはなく、飲むのであれば適度に抑えるべきで、蒸留酒中心にして、つまみは控えめにというだけです。