BIG3の3番目はベンチプレスではないという議論について


はじめに


今回は、BIG3の3番目はベンチプレスなのかという疑問についてです。

BIG3と言えば、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスと説明されているのが一般的です。

しかし、BIG3の3番目はベンチプレスではなくて、ミリタリープレスだという意見がネットにあったりします。

その主張をする人たちは、ベンチプレスでウェイトを支えているのは、究極的には自分ではなく、ベンチであって、自分とバーベルしか存在しないスクワットやデッドリフトとは根本的に種類の異なるエクササイズであると主張します。

そして、この主張は一理ありそうな気がします。ベンチの上に寝っころがってウェイトを持ち上げるような動作を、本当にウェイトトレーニングのBIG3などと呼んでよいのでしょうか。

そこで、この主張を解説してみたいと思います。

今回は、ウェイトトレーニングの世界的指導者である、Mark Rippetoeの世界的ベストセラーであるStarting Strength: Basic Barbell Trainingを参考にします。

なお、記事の主目的はRippetoeの考え方の紹介にあり、タイトルとは異なり、何がBIG3かとか、ベンチプレスをBIG3と呼んでよいかどうかといった、どうでもよい議論には全く興味がありません。

キネティックチェーン


野球、サッカー、テニス、ゴルフ等、どんな球技にせよ、ボールが飛んでいくのは、物理的に考えれば、ボールが力を持っているからです。当然、ボールにエンジンはついていませんから、何らかの形でボールに外部から力が伝えられた結果、ボールが力を持って飛んでいきます。

そして、実際には、動くラケットやバットにボールが当たることで、ボールに力が伝えられます。正確にいうと、ラケットやバットが動いているということは、ラケットやバットがすでに力を持っていて、その力がボールに伝えられるわけです。

なんだか、回りくどい説明をしていますが、ラケットやボールを動かす力を生み出しているのは最終的には筋肉です。体のいろいろな筋肉が収縮されることで生じた力が、ラケットやバットに集中され、その力がボールに伝えられます。ラケットを振る動きの背後には、無数の筋肉の関与があります。

何が言いたいのかというと、ボールやラケットの動きの源となる力は、体中の様々な筋肉が収縮することで生じた無数の力が集約されているということです。

つまり、人間の体には、力を発生させる無数の筋肉がある一方、それらを一つにまとめる導線があると言えます。

この導線がキネティックチェーンです。うまく訳せませんが、直訳すると、動力鎖とか、運動鎖になります。体中で発生した無数の力をバットなりラケットなりに集中させる連鎖(線)です。

アスリートにとって重要なのは、その全身の各部位の筋肉の収縮により生じた無数の力を、できる限り効率的に、一つの力点(バットとボールの接点)に集約することです。

下の絵を見てください。

サンドバッグ

下手くそな絵で申し訳ないのですが、これは、ボクサーがサンドバッグをパンチしている絵です。

どんなスポーツでも、下半身の強さが重要と言われます。ボクシングなどは、下半身を直接的に使うわけではないですが、他のスポーツ同様、走り込みによる下半身の作り込みを非常に重視する競技の一つです。

それは、なにも軽快なフットワークのためだけではありません。体の中では、下半身の筋力が一番大きく、かつ、動かない地面を蹴ることで非常に大きな力を生み出せるからです。そして、その力を、キネティックチェーンを伝わらせて、拳に集中させるわけです。

格闘技の世界では、“手打ち”という表現があり、これは手だけで打ついわゆる素人パンチのことです。上級者になればなるほど、パンチは強くなりますが、腕の筋力が増えているわけではなく、全身の力を効率的に拳に伝える能力、つまり、キネティックチェーンの効率性が増しているのです。地面を蹴る力や体を回転させる力等の全身の大筋群から生じる力を拳に乗っけることで、体格からは信じられないような衝撃を相手に与えることが出来ます。その一方で、腕をいくら鍛えたところで、パンチ力の向上は大したことありません。

野球でも、ホームランバッターの場外ホームランの映像などで、力んでいるというよりは、軽く飛ばしているような映像があります。力ももちろん必要ですが、下半身の強い選手が、キネティックチェーンによって下半身の力を効率的にボールに伝えることが出来れば、腕や上半身に力など入れなくても、軽くホームランになるわけです。

これがキネティックチェーンです。

そして、キネティックチェーンを支配しているの神経です。無数の筋肉を束ねているのは神経系であり、各筋肉を連動させる能力は神経系の能力とも言えます。

ベンチプレス


下記の絵を見れば分かるように、ベンチプレスのキネティックチェーンの一端はベンチと背中の接点です。

ベンチキネティック

もちろん、上級者は足を地面について、足を効率的に使うことでうまく全身のバランスを取り、その挙上重量を上げていますから、地面についた足が重要でないと言えば嘘になります。

しかし、ベンチプレスという動作は、脚をベンチの上に置いたり、宙に浮かせたりしてもできる動作ですから、キネティックチェーンに地面を蹴る動作が含まれているかと言えば、ほぼ含まれていないと言ったほうが正確です。

これが、アスリートにとってベンチプレスが必要なのかという疑問の出発点です。

どんなスポーツも、地面を足でける力を力点に伝えるキネティックチェーンは非常に重要であり、ベンチプレスのような、動かないものに背中を押し付けた状態で、力を集約するキネティックチェーンを利用する状況などないからです。

もちろん、ベンチプレスでは、背中をベンチに押し付け、安定した状態を作ることで非常に重い重量を扱えますから、力強い体の象徴ともいえる大胸筋の成長には非常に有効であり、見た目を重視するボディビルディングにとって重要なのは間違いありません。

しかし、特定の競技能力を向上させるための補助手段として、ウェイトトレーニングを考えた場合、ベンチプレスは、多数の筋肉を連動させる複合関節種目に分類されるものの、キネティックチェーンとしては、実際の競技とはかけ離れているという欠点があります。

ボクシングのパンチにしろ、ゴルフのスイングにしろ、下半身の力を腕や拳に伝える重要性に着目したとき、胴体というのは、まさにキネティックチェーンの中枢です。脚、胴体、腕、の順に力が集約されつつ伝わっていくのが通常です。

そして、上半身のトレーニングとしてベンチプレスを見た時に、キネティックチェーンの一端が地面につながっていないという致命的な欠点を持っています。

そこで、ベンチプレスは、見た目ではなく機能を求めるアスリートにとって重要な種目ではないと言われたりするのです。

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その見解が、ベンチプレスがボディビルダーに注目される1950年代までは、主要な種目ではなかった事実と変な融合をして、BIG3の3番目は、本当はベンチプレスではないと言われたりするわけです。

厳密に言えば、パワーリフティングの正式種目である以上、ベンチプレスをBIG3と呼ぶことは問題ありませんし(それ以外にBIG3の定義をしようがない)、1950年代くらいまでは、上半身の力強さを図る種目としては、以下で説明するオーバーヘッドプレスが行われていましたが、その時代にBIG3なる単語があったわけではありません。

つまり、BIG3の3番目の種目が歴史上のどこかで入れ替わったわけではありませんから、「本当のBIG3は・・・」といった言い方自体はおかしいものです。

また、筋トレ初心者はあまり種目数を多くせずに基本種目に絞るべきという意見に一理あるとしても、3つではさすがに少ないと思うので、3つ目をベンチプレスにするかオーバーヘッドプレスにするかという議論も、前提がおかしいというか、ナンセンスな議論な気がします。両方入れてBIG4にする方がはるかに良い案でしょう。

しかし、いずれにせよ、ベンチプレスには、そのキネティックチェーンにおいて、実際の多くのスポーツ競技とかけ離れているという欠点があります。

ボディビルディングという観点でウェイトトレーニングを考えれば、ベンチプレスをBIG3の一つと呼んで、実質的にも全く問題ありません(大胸筋は重要なので)。しかし、競技者が行うストレングストレーニングとしてウェイトトレーニングを考えた場合に、ベンチプレスをBIG3と呼ぶのは少し問題があります。オーバーヘッドプレスの重要性を無視できないからです。

オーバーヘッドプレス


下半身のスクワット、下背部のデッドリフトときたら、それらに相当する上半身の種目はオーバーヘッドプレスです。実質的に考えると、これこそBIG3と呼ばれるのにふさわしい種目です。キングオブ体幹種目です。

Rippetoeは、著書の中で、オーバーヘッドプレスではなく、ザ・プレスと呼んでいますが、ここではオーバーヘッドプレスと呼びます。

下記動画がRippetoeが直々に教えているオーバーヘッドプレスです。

Rippetoeによれば、オーバーヘッドプレスのストリクトフォームがミリタリープレスとなり、いわゆるフロント・バーベル・ショルダープレスです。

下記動画は、シーテッドミリタリープレスですが、フォームがきれいなので載せておきます。

オーバーヘッドプレスでは、臀部を前後に動かすことで、より体幹を使って高重量を扱えるようになります。

オーバーヘッドプレスでは、下記の絵のようにキネティックチェーンが足元から手先までになります。

プレスキネティック

キネティックチェーンの一端が地面を蹴る脚であり、その力が胴体を経由して、直接的に負荷の乗っている手先に伝わるという点で、実際の競技に近いものです。

そして、このキネティックチェーンはスクワットやデッドリフトにはないものです。

スクワットやデッドリフトは、競技能力に不可欠な下半身や下背部の力を非常に強化するものです。どんな競技も、下半身の力強さは競技能力の要ですから、スクワットやデッドリフトは非常に効果があります。

しかし、実際の競技では、下半身の力は胴体を伝わって、最終的には腕(や拳)に伝えられる必要があります。

この点、地面を蹴る力が胴体を伝わって、手の先にあるウェイトにまで伝わるオーバーヘッドプレスは、実際の競技に近いキネティックチェーンを実現するという点で、非常に重要なエクササイズです。

特に、全身の力を力点に集約するという観点から考えると、胴体というのは下半身の力を力点に伝える媒体であり、足と手を一直線に結んだ先に胴体があるというのは、まさに、究極的なエクササイズです。

地面を蹴る力が手先まで一直線に伝わる動作はこれ以外ないと言っても過言ではありません。

力の方向


ここで、ベンチプレスは胴体に対して90度の角度で手を伸ばしますが、オーバーヘッドプレスでは真上に手を伸ばします。

そして、実際の競技では、ベンチプレスのように、腕は胴体に対して90度くらいの角度にあることが多く、オーバーヘッドプレスのように腕を真上に伸ばす動きというのはあまりないと思います。

そうすると、それに近いベンチプレスの方が競技には役に立つのではないかという疑問が生じるかと思います。

この点は、Rippetoeの主張の神髄に触れる点です。

Rippetoeは、ウェイトトレーニングの動作は、競技の動きと似ている必要はないと主張しています。それどころか、重いボールを持って投球練習するようなことは正しい技術を害するだけで終わると主張します。重いボールを、普通のボールと同じフォームで投げることはできないのだから、そんな練習をしても無意味だと言います。

効果的なストレングストレーニングとは、バーベルを効率的に動かし、その競技で使われる筋肉全体を連動させるトレーニングであり、アスリートを力強くするトレーニングである。そして、その力強くなった体を、競技に生かすために、実際の競技の動きを繰り返す競技固有の練習が必要になるという意見です。

結局、サッカーがうまくなりたいのであればサッカーの練習をするしかなく、野球がうまくなりたければ野球の練習をするしかない。ウェイトトレーニングにできるのは体全体を力強くすることだけであるのだから、ウェイトトレーニングでは、高重量を扱えるバーベル運動としての効率的な動きで、必要な筋肉を連動させる能力を向上させ、力強い体を手に入れることに集中すべきという結論になります。

繰り返しによる技術習得を主眼とする競技トレーニングと高重量により全身の力強さを強化するストレングストレーニングとの明確な2分論です。

そして、バランスボールの上でダンベルなんて持ち上げても無意味である。実際の競技の動きとはかけ離れているから技術向上には影響ないし、扱える負荷も軽すぎて体を強化することも期待できない。結局、ファンクショナルトレーニングなんて無意味であるという有名な主張になります。

以上から、実際の競技で腕を出す方向はウェイトトレーニングには関係なく、足から手先までつながるキネティックチェーン(全身を連動させる神経系)を鍛えられるオーバーヘッドプレスが上半身のストレングストレーニングとしては最重要という結論になります。

終わりに


今回は、ベンチプレスはBIG3ではないという意見を素材にキネティックチェーンについて考えてみました。

なお、Rippetoeもベンチプレスが無意味などと言っているわけでは全くなく、ベンチプレスで高重量を扱い上半身の力強さを鍛えることの重要性は認めています。しかし、上半身にとって一番重要なエクササイズは、オーバーヘッドプレスであると言っています(もちろん、どっちをやればよいかと聞けば両方やれと答えると思いますが)。

地面を蹴る力を力点に伝える作用こそが、上半身(胴体)のメインの機能ともいえるからです。

BIG3の3番目がベンチプレスなのかどうかは正直どうでもよい議論ですが、キングオブ体幹種目は何かと聞かれれば、それはオーバーヘッドプレスです。

プライベート空間でダイエット&ボディメイク
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